経済的観点に比重を置き過ぎたニューズウィーク日本版の「統一朝鮮」特集


◆対立の構図が崩れる

 南北首脳会談、予定されている米朝首脳会談と朝鮮半島をめぐる情勢が激しく動いている。70年間も“対立”で固定されてきた関係が大きく変化しようとしており、周辺国はそれによる「恩恵」と「リスク」に高い関心を寄せる。

 ニューズウィーク日本版(5月22日号)が「統一朝鮮は日本のリスクか」を特集した。これまで米国を中心にして日本、韓国は民主主義、資本主義経済、人権尊重という共通価値と、共産主義、全体主義、独裁体制と対峙(たいじ)するという安全保障上の利害を共にしてきた。言い換えれば、38度線を挟んで「日米韓」対「中露朝」という対立構図として東アジア情勢を理解してきたのだ。

 その衝突点が手を携えることは、これまでの対立構造が根本から崩れ、新しい秩序や未来を構想せざるを得ない状況になった、ということである。だから、統一朝鮮が日本にとって恩恵をもたらすものか、リスクとなり得るものかを考えるのは至極当然のことだ。

 同誌は「反日の核保有国」が隣に現れることを警戒する日本人は多いが、経済面での影響の分析が日本には足りない、と指摘している。金正恩朝鮮労働党委員長の関心は「自国の経済改善と発展で頭がいっぱいなはず」とし、「日本人に欠けている視点がこれである」と強調する。

 同誌は、南北が統一されれば人口7600万の市場が出現し、北朝鮮へのインフラ整備などの投資が生まれ、その経済効果は「中国に3009億ドル、アメリカに379億ドル、日本には244億ドル」という「韓国のシンクタンク対外経済政策研究院」の予想まで紹介した。

 さらに、北朝鮮には「豊富な地下資源」が眠っている。「開発可能な鉱物資源は約2億トン、約300兆円規模」と推定する「韓国側の調査もある」と風呂敷を広げて見せた。まるで、「北朝鮮開発に乗り遅れますよ」と日本をけしかけているような記事である。

◆中国を見くびり過ぎ

 だが、地下資源の話でも分かるように、この特集では「中国」の分析が足りない。確かに地下資源が豊富な朝鮮北部は日本植民地時代に開発された鉱山が多く、「未だに図面を持っている日本は有利だ」と本気で信じている韓国人もいるほどだ。

 ところが、すでに1990年代から北朝鮮は多くの鉱山の採掘権を中国に売っている。それを運ぶための鉄道敷設権や港湾使用権、港湾までのアクセス(道路建設)権まで中国に渡している、との報告が出されている。韓国が指をくわえて見ているしかない状況にじだんだ踏んだこともあるのだ。

 特集の中には「『中国外し』を習近平は恐れる」の記事もあり、中国が「統一後の朝鮮半島に自国がどんな影響力を持つか」を懸念し、「核軍縮・和平プロセスに自国がどんな役割を果たすか」を模索していると紹介もしているが、それは中国を見くびり過ぎだろう。

 北朝鮮が急に態度を変え、南北閣僚級会談をドタキャンし、米韓合同訓練を非難したのみると、背後に中国の力を感じざるを得ない。非核化交渉や平和協定、米朝正常化の課程で中朝がそろって在韓米軍の撤収を主張してくることは火を見るよりも明らかで、“中国外し”など予想もできないのが現状だ。

◆政府の取り組み無視

 話を戻せば、同誌は北朝鮮が核問題について、「いったん開発したら後は失っても構わないのが本音」として、核はあくまでも対米交渉用であり、体制保証を取り付け、経済支援を受けられれば、核兵器にはこだわらないと、頼まれもしないのに北朝鮮の対米日戦略の狙いを説いて見せる。

 特集の冒頭記事を書いた「ジャーナリストの浅川新介」氏は、「いたずらに圧力を叫ぶだけの日本には、この地域に積極的かつ建設的に関わろうとする戦略どころか、意欲もない」と記事を結んでいる。しかし世界で一人前のプレーヤーになろうと憲法を改正して、独立国として当たり前の国防軍を保持しようとしている政府の取り組みは一顧だにしない。そうしてこそ、建設的に関与できるのだが。

 同誌の特集は経済的観点に比重を置き過ぎている。わが国が(同盟国と共同して)世界戦略を立てられる「普通の国」になれば、朝鮮半島は「リスク」から「機会」「恩恵」に変わるはずだが、その観点がないのは残念だ。

(岩崎 哲)