在韓米軍に「縮小・不要」論、撤退すれば韓国“丸腰”状態に
南北首脳会談が終わり米朝首脳会談への準備が進められる中、米韓両国で在韓米軍の縮小報道や不要論が出始め波紋を広げている。在韓米軍は韓国の安全保障や外国人投資に不可欠な存在。南北首脳が署名した「板門店宣言」にある平和協定締結協議が始まれば、撤退は現実味を帯び始めるかもしれない。
(ソウル・上田勇実)
平和協定締結なら現実味
文在寅政権のブレーンの一人である文正仁・統一外交安保特別補佐官は先月30日の米専門誌寄稿文で「平和協定が締結されれば在韓米軍の駐留を正当化するのは難しい」と主張した。
また文氏は3日、訪米先で韓国記者団に「撤退を話したことはない」としながらも、懇談したキッシンジャー元米国務長官から「朝鮮半島非核化、平和協定締結、米朝国交樹立が実現した場合は自然に在韓米軍(の駐留)を維持するか否かの話が出る」と言われた、と紹介した。
一方、米紙ニューヨーク・タイムズ電子版は3日、複数の政府当局者の話としてトランプ米大統領が在韓米軍の規模縮小を検討するよう国防総省に指示したと報じた。同紙は「米政府当局者らには規模縮小を北朝鮮との非核化交渉の材料にするつもりはない」とも伝えた。
こうした在韓米軍撤退を示唆する発言や報道が明らかになると、韓国では保守派が猛反発し、米韓両政府とも火消しに乗り出した。韓国青瓦台(大統領府)は「在韓米軍は韓米同盟の問題で、平和協定とは無関係」とする文大統領の見解を発表。米国もボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)が「大統領はそんな指示は出していない」と一蹴した。
在韓米軍の縮小・不要論が相次いでいるのは、先の南北首脳会談で現在の休戦協定を平和協定に転換させる方針が確認されたためだ。平和協定が締結された場合、韓国に米軍が駐留する必然性がなくなり、トランプ大統領の「米国第一」主義の観点からも撤退は自然の流れになる。
だが、まだ北朝鮮が完全かつ検証可能で不可逆的な非核化を終えていない時点で撤退を云々すること自体が危険だ。在韓米軍は「朝鮮半島で戦争を防ぐ決定的な抑止力」(韓国保守系シンクタンク)となってきたはずだが、それを韓国自らが放棄して“丸腰”になることは特に北朝鮮が核を隠し持っていた場合、致命傷になりかねない。
北朝鮮が韓国を自国支配下に置くため一貫して在韓米軍撤退を主張し続けてきたことにも留意する必要がある。終戦宣言後の平和協定締結は「100%在韓米軍撤退を狙った北朝鮮政権が70年以上主張してきた宿願」(宋大晟・前世宗研究所所長)とされる。
また「仮に北朝鮮が核を廃棄したとしても中国の覇権主義は何をもってして防ぐのか」(韓国紙朝鮮日報)という問題もある。結局、撤退は見方を変えれば「中朝共通の戦略目標」(宋氏)と言える。
米韓両政府が在韓米軍撤退説を即座に否定したのは、こうした危険性ゆえに波紋が広がるのは必至と判断したためとみられる。
近く開催される見通しの米朝首脳会談で在韓米軍撤退問題が議題に上るとは考えにくい。ただ、すでに南北首脳会談で平和協定締結に向けた協議開始が明記され、「道筋」は付けられた状態だ。
北朝鮮が核実験・ミサイル発射を中断して実験場を立ち合いの下で廃棄し、米国に到達する大陸間弾道ミサイル(ICBM)の配備を留保させ、さらに既存の核を一部廃棄するなどの「核凍結」を「非核化に向けた大きな前進」などと大袈裟に宣伝した場合、米国はその見返りとして制裁の一部解除や平和協定締結に向けた協議に応じる可能性がある。
超大型イベント続きで国際社会が北朝鮮の完全非核化の行方よりも平和協定締結に目を奪われれば、北朝鮮にとって好都合だろう。
南北首脳会談が終わり、一部で「偽装平和」などと批判が上がりながら、米朝首脳会談への準備は着々と進められ、在韓米軍をめぐる問題発言まで飛び出した。北朝鮮ペースはまだ続きそうだ。






