北の核・ICBM実験中止宣言、本音透ける非核化ショー

 北朝鮮は先日開かれた朝鮮労働党中央委員会第7期総会で4月21日から核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験を中止し、北東部の豊渓里核実験場を廃棄することを全会一致で採択した。27日の南北首脳会談と6月初めまでに開かれる見通しの米朝首脳会談を前に、非核化に向け具体的に歩み出したことを国際社会にアピールする狙いとみられるが、北朝鮮の真意に疑問を投げ掛ける声は少なくない。
(ソウル・上田勇実)

08年冷却塔爆破の二の舞も
核軍縮に言及、既存核は保有か

 今回の核・ICBM実験中止宣言で真っ先に思い出すのは2008年に北朝鮮の寧辺核施設で行われた原子炉冷却塔の爆破だ。

北朝鮮・寧辺にある黒鉛減速炉の施設

北朝鮮・寧辺にある黒鉛減速炉の施設。北朝鮮は2008年冷却塔を爆破したが、7年後には完全運転再開を発表した(エアバスDS/38 North提供=時事)

 当時、北朝鮮は核問題をめぐる6カ国協議で寧辺核施設の運転中止や国際原子力機関(IAEA)査察官による監視などを約束。その後、ブッシュ米政権が北朝鮮に対するテロ支援国家指定を解除すると表明した見返りとして寧辺の5000キロワット黒鉛減速炉に通じる冷却塔を爆破し、その模様を日米韓メディアに中継させ、核施設の封印を国際社会に印象付けた。

 ところが北朝鮮は翌年、ミサイル発射実験に対する国連制裁措置への対抗措置として使用済み核燃料の再処理を再開させたのを皮切りに逆に核施設を補強していった。13年に寧辺核施設の活動再開が確認され、15年には5メガワットの実験炉を含めた完全運転再開を発表した。

 結果的に北朝鮮の冷却塔爆破は見せ掛けの非核化に過ぎないショーだったわけだが、爆破された当時から北朝鮮の真意を疑う見方は多かった。それにもかかわらず日米韓をはじめ西側諸国は数年後に北朝鮮の核施設再開を目撃することになり、さらなる開発を許した。

 こうした北との非核化交渉で犯した失態が教訓として生かされれば幸いだが、韓国・文在寅政権は北朝鮮の発表を無条件に歓迎し、トランプ米大統領も評価するコメントを出すなど、早くも北朝鮮の真意を見極めようという慎重論は無視されようとしている。

 この状況に北朝鮮問題に詳しい柳東烈・元韓国警察庁公安問題研究所研究官はこう警鐘を鳴らす。

 「北は昨年の『水爆』実験とその後の新型ICBM発射実験で核武力の完成を主張した状態。一部坑道の地盤沈下が激しく、既に核実験場としての機能を失いつつある豊渓里を封鎖するというのは非核化のショーに過ぎず、これを受け入れて見返りを与えるようなことになれば冷却塔爆破で西側諸国が味わった苦い経験の二の舞になる」

 過去に北朝鮮との非核化交渉に長く携わったヒル元米国務次官補も「老朽化した核実験場の廃棄に意味はない」と懐疑的だ。

 一方、今回の党中央委員会総会の決定事項として目を引くのが「核実験中止は世界的な核軍縮に向けた重要なプロセスであり、わが共和国は核実験全面中止のための国際的志向と努力に加わるだろう」というくだりだ。

 核軍縮に言及することで既存の核を既成事実化させようという意図が透けて見える。「過去、現在の核は保有したまま、将来の核だけを除去するという術策」(柳氏)であれば核保有宣言にも等しいとんでもない話である。

 日本政府は今回の北の発表に慎重な姿勢を崩していない。特に短・中距離弾道ミサイルの発射実験への言及がなかったため「不十分」(小野寺五典防衛相)だとし、北に完全かつ検証可能で不可逆的な非核化を求め、それに向けた具体的な行動がない限り制裁緩和には応じない方針だ。

 ただ、これに米韓両国がどうコミットしてくるかは不透明だ。南北融和と米朝対話で取りあえず満足している文政権は北の真意にはあまり関心を示そうとせず、トランプ大統領も日米首脳会談の後に北の「サプライズ中止発表」があり、実際に米朝首脳会談で日本の立場をどこまで代弁するか迷い始めている可能性がある。

 「北朝鮮に何か行動させて手打ちをするという、今までとあまり変わらないパターン」(北朝鮮ウォッチャー)になれば北朝鮮の非核化はさらに遠のいていく。