韓国慰安婦支援団体、「親北」疑惑に訴訟乱発


特報’17

日韓合意で存続に危機感?

 いわゆる従軍慰安婦問題で被害者支援を謳(うた)う市民団体「韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)」が北朝鮮の理念や体制に好意的な「親北派」ではないかとする疑惑をめぐり、挺対協が今年に入り訴訟を乱発している。背景には2015年12月の日韓「慰安婦」合意に伴う運動存続への危機感などがあったのではないかとの見方も出ている。(ソウル・上田勇実)

文政権発足で勢い

 今月15日、在ソウル日本大使館前の慰安婦像を囲んで被害者への謝罪・補償などを求める定例の反日デモ「水曜集会」にある日本人男性が参加し、演壇に上がった。毎週火曜日、大阪府庁前で朝鮮学校の授業料無償化を訴える抗議活動「火曜行動」の常連メンバーだ。

水曜集会

15日、在ソウル日本大使館前で行われた「水曜集会」で元慰安婦の横で集会の様子をスマホで撮る尹美香共同代表(左端)=上田勇実撮影

 「火曜行動と水曜集会は心がつながっている」

 集会後、男性は「人権」や「反日」で連帯する慰安婦問題と朝鮮学校問題の共通点をこう言い表した。

 朝鮮学校は北朝鮮の指示を仰ぐ在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の影響下にあり、韓国では「反国家団体」(最高裁認定)。だが、これまでにも元慰安婦が朝鮮学校を訪問したり、そこの学生に奨学金を渡すなど、両者は深い関係にある。つながっている「心」とはさらに深い部分では「親北」ではないのか、との疑いを抱かせる。

 その挺対協は今年、名誉毀損(きそん)の提訴・告訴に相次ぎ踏み切っている。

 2月、韓国で挺対協をめぐる「親北」疑惑を最も熱心に追及しているインターネット媒体「メディアウォッチ」をはじめ保守系団体のメンバー11人を相手取り、民事訴訟を起こした。5月には昨年、ソウル駅前広場で挺対協の「親北」疑惑を暴露するビラを配布していた保守系女性団体代表が検察に起訴され、8月は別の保守系論客らが同様の理由で起訴されている。

 これまで指摘されている挺対協をめぐる「親北」疑惑には、①尹美香共同代表の夫と義理の妹が国家保安法違反で有罪判決を受けた②金正日総書記の死去の際に弔電を送った③主要メンバーが「親北反米」の政治志向を持っている④朝鮮総連と協力関係にある⑤13年に警察に国家保安法違反容疑で電子メールを家宅捜索された――などがある。

 このうち夫、金三石氏とその妹、金銀周氏に対するスパイ疑惑は今年3月、最高裁の上告棄却で「92年に日本で反国家団体である在日韓国民主統一連合(韓統連)議長らと会い、少なくない金品を受け取った」ことが事実として認められ、一部有罪判決が確定している。つまり尹共同代表の夫と義理の妹は北朝鮮のスパイ活動に関与したことがはっきりしたわけだ。

 挺対協が「親北」の負い目を感じながら強気に訴訟を乱発するのはなぜか。メディアウォッチの黄意元代表はこう指摘する。

 「恐らく韓日慰安婦合意の『最終的、不可逆的』解決で、自分たちの運動存続への危機感を抱いたのではないか。韓日合意を決断した朴槿恵前大統領の弾劾と合意見直しを公約に掲げた文在寅政権の発足も挺対協を勢いづけている」

 今のところ尹代表は自身と挺対協をめぐる「親北」疑惑を強く否定している。夫と義理の妹の有罪確定は本来なら注目を集めてもおかしくないニュースだが、韓国のメディアの扱いは小さかった。「自分の暮らしばかりに関心が向き、理念離れが著しい韓国世論」(韓国紙外交安保担当記者)も挺対協にとっては都合がいい。

 挺対協は政治情勢や世論などさまざまな「追い風」を捉え、「親北」疑惑を払拭(ふっしょく)できるとにらんでいるのかもしれない。