韓国・文政権、前・元保守政権に報復開始?

省庁に「積弊清算委」設置
芸能人ブラックリスト暴露

 韓国の文在寅政権が公約1号に掲げていた「積弊清算」に乗り出した。ターゲットは朴槿恵・李明博両保守政権で、当時の政権に批判的だった芸能人のブラックリストを探させて暴露するなど事実上の政治報復だ。政権交代のたびに繰り返される光景に「またか」という声も聞こえてきそうだ。
(ソウル・上田勇実)

金済東氏

トーク番組に出演する金済東氏(番組ホームページから)

 「国家情報院(韓国情報機関、略称・国情院)の職員から盧武鉉大統領逝去の時に路祭(法事の一種)で司会をしたのだから一周忌ではやらなくてもいいのではないか、と言われた」

 これは李明博政権時に左翼系芸能人としてマークされた82人の芸能人ブラックリストに名前が載ったお笑い人気タレント金済東氏が最近明かした内容だ。

 リストは文政権の号令で始まった「積弊清算」の一環で、このほど国情院が暴露したもの。金氏は左派政治家、盧武鉉大統領の支持者として知られ、その影響力ゆえに政権からにらまれたようだ。

 ブラックリストと言えば昨年、朴前政権の秘書室長らが同じように政権に批判的な文化人をリストアップしていたことが発覚したばかりだが、ここ十数年、韓国のテレビ番組や映画では「反保守もの」が増えていたのは確かだ。リストは左傾化した芸能界の是正を目的にしたはずだったが、政権交代で“善悪”が逆転し、今は完全に批判の的となってしまった。

李明博氏

李明博元大統領。政権時に82人の左翼系芸能人のブラックリストがあったと さ れ る=CC/Gobiernode Chile

 一部では、芸能人ブラックリストの暴露を機に李明博元大統領に対する捜査まで突き進むのではないかといった観測もみられる。仮にそうなれば、李政権当時に自殺した「盧大統領に対する報復捜査の性格を帯びざるを得ない」(韓国紙・朝鮮日報)。

 韓国メディアによると、青瓦台(大統領府)はすでに積弊清算を履行する「積弊清算委員会」の設置を各省庁に指示しており、多数の省庁から現状・計画について報告が上がっているという。

 そのうち国防省の「軍積弊清算委員会」は、外部委員7人のうち4人が韓国動乱(1950~53年)の自軍功績を過小評価したり、南北軍事衝突で北朝鮮側の主張を支持したことのある左傾化軍人で占められているという。

 また同省は積弊清算と関連し、1980年の光州事件で大学生らの民衆蜂起を鎮圧しようとした軍が戦闘機を出撃させようとしたり、ヘリ機が民衆に機銃掃射を加えたという疑惑の調査委員会を立ち上げた。この場合、積弊は民衆を弾圧しようとした当時の全斗煥政権である。

 ただ、北朝鮮の核・ミサイル脅威という緊迫した局面で一瞬たりとも気の抜けない指揮官であるはずの宋永武・国防相が、調査委発足の看板上掲式に姿を現したのは一部で失笑を買ったようだ。

 与党・共に民主党の場合、主要キー局のKBS、MBCを「言論積弊」と規定、保守政権に好意的な経営陣を退陣させるロードマップを作成し、すでに実行に移ったとみられている。

 一方、北朝鮮は、文政権が北朝鮮弾道ミサイル迎撃の高高度ミサイル防衛(THAAD)システムの発射台追加搬入を最終的に認めたことや米国と有事を想定した合同軍事演習を繰り返していることについて、「積弊清算の対象として烙印を押された朴槿恵執権期間の醜態と何が違うのか」(対韓国宣伝サイト「わが民族同士」)と不満を露わにした。

 文政権としては今まで散々北朝鮮に強硬策を敷いてきた保守政権を叩き、北から褒め言葉の一つでも聞きたいところだろうが、逆に「積弊清算を語る資格なし」と言われているようで少し滑稽だ。