制裁履行体制不十分な日本


国連北朝鮮制裁委員会元専門家パネル委員 古川勝久氏

 今回の決議案には、国連制裁対象指定の特定貨物船に対する海上臨検措置、金正恩氏の制裁対象指定、原油供給の全面停止などが盛り込まれており、北朝鮮の強い反発を間違いなく招くことになる。中国やロシアなどがこの決議案に同意する可能性はかなり低いのではないかと思われる。

古川勝久

 決議案では、安保理が制裁対象指定する国連制裁違犯貨物船に対し、旗国の同意なしでも、公海上で海軍や海上保安庁などによる臨検を行い、貨物船を近隣の港に寄港させて資産凍結などの措置を取ることができる。その際、軍事手段を含む「あらゆる必要な措置」を取ることも許可している。これは義務ではないものの、極めて強力な措置になり得るため、臨検側と北朝鮮との間での緊張関係を生むことになろう。

 これは日本の海上保安庁、海上自衛隊にとって、極めて重要な意味合いを持つ。日本が単独で臨検する場合や米海軍が臨検する場合などを想定し、国内法の整備が必要だ。日本国内には、貨物船を資産凍結するための法律がいまだに存在しないため、臨検をしても現状では資産凍結することはできない。

 原油、精製石油製品、液化天然ガスの対北朝鮮供与の全面禁止は断油措置であり、北朝鮮側の猛烈な反発を招く可能性がある。日本に対する挑発行動のリスクが高まる可能性を考慮すべきだ。

 原油供給を一時停止すれば、中国・北朝鮮間のパイプラインは老朽化もあり、再開は技術的に困難との専門家の見解がある。仮に将来、この制裁措置を解除しようとしても、原油供給の再開がかなり難しくなるのではないか。

 また、金正恩氏、北朝鮮政府、朝鮮労働党に関わるあらゆる資産凍結が義務化される。これらを代理する団体や個人に対しても、この制裁措置は適用される。北朝鮮政府や朝鮮労働党のために活動する組織が日本国内にあれば、その資産も凍結の対象として考えなければならなくなると思われるが、日本国内にはそのような法律は存在しない上、憲法との整合性などが大きな問題となろう。

 従って、決議案が採択されれば、日本にとっても決議履行のための国内法や手続きの整備はかなり困難なものになる。

 既存の安保理決議を含め、多くの国連加盟国が国内履行の法律や行政手続き等を整備していない。制裁措置の実効性確保には、加盟国間での国際協力が必須だ。日本政府は中国や東南アジアに対し、実務レベルでの支援はほとんど行っていない。欧米は行っているのに対して、日本のこのような姿勢が果たして妥当なのか、再考する必要がある。