米朝の非難応酬、不測の事態への備え怠るな


 北朝鮮が米国を射程に入れた大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発とこれに搭載できる核弾頭の軽量・小型化に一定のメドを付け、米攻撃能力をアピールしていることをめぐり米国と北朝鮮が非難の応酬をエスカレートさせている。どちらかが先制攻撃に踏み切るような緊迫した状況には至っていないが、緊張が高まれば突発的事態を招きかねない。日本としては万全の備えを怠らないことが重要だ。

本音は武力衝突回避

 今年に入り各種の弾道ミサイル発射を繰り返している北朝鮮は先月、通常より高い高度まで到達させるロフテッド軌道でICBMを2度にわたり発射させ、日本をはじめ周辺国に「新たな脅威」を認識させていた。

 そのさなか、北朝鮮は米軍基地があるグアム島周辺に対する「包囲射撃」を検討中とし、4発同時に発射して同島周辺30~40㌔の海域に着弾させると威嚇。「南朝鮮(韓国)全地域を同時攻撃」し「日本列島を焦土化できる」とも言及した。日米韓に対し、実際に攻撃能力を確保したと印象付け、より現実的な脅威を突き付けるつもりらしい。

 今回はトランプ米大統領も北朝鮮の威嚇に強い口調で応じた。挑発が続けば「世界が見たこともない砲火と怒りに直面する」とし、米国保有の核戦力について「かつてないほど強力」と北朝鮮を牽制(けんせい)した。

 まだ韓半島近海で「カール・ビンソン」や「ニミッツ」など米空母の展開はないとみられ、米政府は対話の可能性を否定していない。一方の北朝鮮も米国を非難しつつ、刺激し過ぎないよう表現に気遣っている。武力衝突という最悪のシナリオだけは避けたいのが双方の本音だろう。

 問題は不測の事態が発生した時だ。北朝鮮の最高指導者・金正恩朝鮮労働党委員長は、国際社会の予想を上回る速度で核・ミサイル開発に邁進(まいしん)してきた。米国攻撃の能力を示すことで相手を直接対話のテーブルに着かせ、経済制裁解除や体制保証取り付けなどに結び付けるのが狙いだ。

 だが、こうした核保有を前提にした北朝鮮の戦術は米国をはじめ国際社会の断固たる反対に遭い、行き詰まる可能性が高い。独裁体制に君臨する金委員長が何かの拍子で統率力を失えば、北朝鮮がどこへ向かって暴走するのか予測がつかなくなる。

 日本は独自のミサイル防衛(MD)態勢を強化する必要がある。グアム攻撃でミサイルの上空通過ルートに名指しされた中国・四国地方には地上配備型迎撃弾パトリオット(PAC3)が配備されたが、予告以外の挑発も想定に入れておくべきだ。

 米韓両国も迎撃用の高高度防衛ミサイル(THAAD)の本格運用に向け政府高官が協議したほか、21日には韓国で定例の米韓合同軍事演習「乙支フリーダムガーディアン」が始まる。北朝鮮に攻撃は無駄であることを思い知らせる上で重要だ。

中露への働き掛けを

 もちろん外交努力も不可欠だ。特に国連安保理の対北制裁決議に表向きには賛成しても、現場での制裁履行に抜け穴が多い中国とロシアに対し、北朝鮮の核問題を終息させるよう粘り強く働き掛ける必要がある。