万景峰号航路、制裁の抜け穴になりかねない
ロシアと北朝鮮を結ぶ貨客船「万景峰号」の定期航路の第1便が、北朝鮮北東部の経済特区、羅先の羅津港を出発してロシア極東のウラジオストク港に到着した。今後、1週間ごとに両港を往復する。
核・ミサイル開発を進める北朝鮮への圧力が強まる中での定期航路開設は、対北制裁網の抜け穴になりかねず、ロシアが国際社会の足並みを乱していると取られても仕方がない。
北の労働者が利用か
今回開設されたのは露朝両国を結ぶ初の貨客船航路となる。使われる船舶は、かつて在日韓国・朝鮮人が北朝鮮に渡った帰還事業などで使われた初代の万景峰号を改修したもの。乗客約200人、貨物1500㌧を積載することができる。
ロシアから北朝鮮には食料品や自動車などが運ばれ、北朝鮮からは外貨獲得の目的でロシアで働く労働者が多く利用するとみられている。定期航路の開設で北朝鮮からの労働者が増え、ロシアのプーチン政権が重視する極東地域の開発が進むことが期待されているようだ。
北朝鮮は弾道ミサイル発射を繰り返し、日米韓3カ国にとっては深刻な脅威となっている。国際社会が圧力を強める中、北朝鮮を支援するロシアの姿勢が鮮明になったと言えよう。
国連安全保障理事会の決議は核・ミサイル関連物資の北朝鮮への輸出を禁じている。第1便の利用客は中国人約10人で、貨物の取り扱いもなかったというが、今後禁輸品が運ばれることが懸念される。ロシアは安保理常任理事国であり、今回の航路開設を制裁の抜け穴とすることは許されない。
特に日本として看過できないのは、航路で使われている万景峰号だ。この船は、かつて北朝鮮の元山と新潟などを結び、日本政府が2006年に弾道ミサイル発射に対する独自制裁に基づいて入港禁止措置を取った「万景峰92号」とは別だが、日本に潜伏する工作員への指令場所としても利用されてきた。1974年8月に朴正熙大統領の陸英修夫人を暗殺した在日韓国人の文世光も、この船中で指令を受けている。
ロシア政府は北朝鮮との経済関係を強化し、20年までに貿易額を今の10倍以上の10億㌦にまで拡大する目標を掲げている。日本は両国の結び付きの強化を警戒する必要がある。
ロシアは北朝鮮の核開発には反対する一方、米国や日本に影響力を発揮するための政治的カードとして北との関係を重視しているとされる。中国が米国と共に北朝鮮に厳しい対応を取ろうとする中、国境を接するロシアとしては定期航路開設で北の暴発を防ぐ狙いもあろう。
プーチン大統領は、北朝鮮の弾道ミサイル発射について「容認できないが、対話を再開する必要がある」と表明。北朝鮮を「脅かすのではなく、平和的解決を目指すべきだ」とも述べた。
露は日米と協調せよ
しかし、これでは北朝鮮の核・ミサイル開発を止めることはできない。ロシアにとっても、極東開発のためには北朝鮮の非核化実現が望ましいのではないか。対北政策で日米などと協調すべきだ。