潘基文氏、韓国大統領選断念
突然の“落馬” 保守に動揺
韓国次期大統領選で野党系候補の有力対抗馬だった潘基文(パンギムン)・前国連事務総長が急遽(きゅうきょ)出馬を断念したことで保守陣営に落胆と動揺が広がっている。向こう1カ月内に判決が下されるとも予想される憲法裁判所による朴槿恵大統領弾劾審理に影響を与えようと街頭デモで必死の訴えを続けている。(ソウル・上田勇実)
有力候補不在に憂慮の声
太極旗デモで弾劾棄却訴え 地元紙も立て直し説く
「潘氏のリタイアで有力候補が誰もいなくなりとても心配」
4日、ソウル中心街で行われた朴大統領弾劾に反対する保守派のデモに参加したある50代女性は溜(た)め息交じりにこう述べた。
潘氏は必ずしも伝統的な保守派とは言い難いが、野党系で支持率1位の文在寅(ムンジェイン)・元「共に民主党」代表と互角に勝負ができると期待され、保守陣営による擁立が予想されていた。「世界大統領」と持ち上げられ、国連事務総長の任期満了で先月帰国した時は意欲満々だった潘氏が、わずか3週間で“落馬”してしまったのだから落胆は大きい。
魔女狩りのように朴大統領非難一色だったろうそくデモに対抗し、朴大統領擁護を訴えるデモは、参加者が韓国の国旗を掲げることから「太極旗デモ」と呼ばれる。
ある男性参加者が背中に羽織っていた大きな太極旗には「ろうそくは人民、太極旗は国民」と記されてあった。男性にその意味を尋ねると「人民は朝鮮民主主義人民共和国、すなわち北朝鮮の住民、国民は大韓民国の国民という意味。ろうそくデモに参加する人たちは北朝鮮に追従する従北主義者だ」と答えた。
文氏が次期大統領になった場合、北朝鮮に対する融和政策が予想され、再び北朝鮮ペースの南北関係に逆戻りすることへの危機感の表れだ。
「太極旗デモ」の主たるシュプレヒコールは「弾劾無効」だ。憲法裁判所が弾劾を棄却すれば朴大統領が再び職務に復帰し、当初の日程通り大統領選は年末に実施される。その間、時間を稼いで候補を育て革新系への政権交代を防ごうという考えのようだ。
朴大統領の権限を代行している黄教安(ファンギョアン)首相に対する待望論が急浮上するほか、今後さまざまな候補が出馬宣言をするとみられているが、いずれも支持率は低く、展望は明るくない。
大統領選を控え有力候補がいないという非常事態に対する保守系主要メディアの現状分析は極めて厳しい。
最大手紙、朝鮮日報は社説で「与野党の関係より遠い親朴(与党主流派)と非朴(与党非主流派など)が手を組むのか未知数。もし別々に大統領選を戦うなら保守政治は完全に支離滅裂になるほかない」と指摘し、この期に及んで与党セヌリ党と同党を離党した新党「正しい政党」が主導権争いをしている現状を嘆いている。
李明博(イミョンバク)・朴槿恵両保守政権時代に主導権争いに明け暮れ、腐敗した保守政治を立て直すことの方が急務だとする主張もみられる。
東亜日報社説は「今、保守に重要なのは再び権力を握ることではなく、最優先の価値である国家安保だけ残して『死なんとする者は生きる』覚悟で新たな地平を開くこと」、また中央日報社説も「(次期)政権5年を逃してもいいから保守を復元せよ」とそれぞれ注文をつけている。
次の大きなヤマ場は来月までに出るとみられる弾劾審理の結果。賛成なら革新系に大きな追い風となり、逆に反対なら保守系態勢立て直しのきっかけとなる。いずれにせよ次期大統領選の行方に決定的な影響を与える「運命の日」となる。