釜山少女像設置、責任逃れに終始

機能不全漂う不甲斐なさ

 昨年の国政介入事件をめぐる国会弾劾可決に伴い、韓国は朴槿恵大統領が職務停止で“不在”の中、外交にさまざまな支障が出始めている。いわゆる従軍慰安婦問題をめぐる日韓合意は昨年末、南部・釜山の日本総領事館前に新たな少女像が設置され後退。北朝鮮の弾道ミサイルを迎撃する高高度ミサイル防衛(THAAD)の配備では中国に露骨な干渉を許している。(ソウル・上田勇実)

釜山少女像設置、責任逃れに終始
中国からはTHAAD干渉

 「釜山の少女像設置は世論の圧力の大きさを証明したようなもの。ソウルの少女像移転への影響は必至だ」

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2016年12月31日、韓国・プサンの日本総領事館前で行われた、慰安婦を象徴する少女像の除幕式(時事)

 日韓合意を受け元慰安婦支援のため設立された韓国の「和解・癒やし財団」の理事の一人は、在ソウル日本大使館前の少女像撤去問題についての現状認識をこう語った。

 釜山の少女像は一時、警察が強制的に排除したが、反対世論に屈する形で結局は設置された。韓国政府の無力さを露呈したといえる。

 ソウルの少女像を撤去するどころか釜山に新たな少女像が設置されるのを結果的に許したことは、韓国政府が同問題に逃げ腰であったと指摘されても仕方がないものだが、韓国側には反対世論を理由に弁解する雰囲気さえ感じ取れる。

 政府は「地方自治体に判断を委ねる」と述べ、総領事館のある釜山市東区の役所では「自治体では手に負えない」とコメント。責任逃れに汲々(きゅうきゅう)とする姿が国際社会にどう映るかなどお構いなしだ。

 当初、財団内部には楽観的な見方もあった。少女像撤去の時期は国内の反対世論が立ちはだかっているため見通せないが、日本政府拠出の10億円を基に元慰安婦らに癒やし金を支給していき、少女像の移転先となる追悼施設の建設にもメドが立てば反対世論も和らぎ道が開けるのではないか…。しかし、国政介入事件で状況は一変した。日韓合意にこぎつけた朴大統領のリーダーシップは消え去り、政府を支えるべき与党は次期大統領選をにらんで分裂状態だ。

 在韓日本公館前の2体目の少女像は「最終的、不可逆的解決」をうたった合意を踏みにじる暴挙ですらあるが、果たしてそういう認識があるのか疑わしいほど今の韓国政府はこの問題で主導権を発揮できずにいる。「日韓合意は守る」と繰り返す政府や財団の言葉が空(むな)しく聞こえる。

 韓国外交の不甲斐(ふがい)なさはTHAAD配備問題にも表れている。

 第一野党の「共に民主党」がこのほど中国に訪問議員団を派遣し、中国側は王毅外相が会談に応じた。会談で王外相は「韓国がTHAAD配備を急ぐのは理解できない」という趣旨の発言をしたといい、THAAD配備に慎重論者が多い同党や同党所属の次期大統領候補に配備見直しを促した格好となった。

 配備に反対する中国が韓国芸能人の入国禁止をはじめ対抗措置として韓国の製品購入禁止や文化コンテンツの流入制限など「禁韓令」を敷いているのではないかといわれ、金章洙(キムジャンス)・駐中韓国大使がその真意を確かめるために中国政府に面談を申し込んできたが、ことごとく断られているという。

 そんな中での野党議員団訪中は「公式ラインの政府を無視したまま野党を中心に韓国内に親中勢力を育てようという中国のもくろみにまんまと利用されたのではないか」(韓国保守系市民団体)という危惧を招いている。

 また議員団が訪中した1月4日は韓国動乱(1950年~53年)で中国軍が参戦しソウルが再占領された、いわゆる「1・4後退」の日であったため、一部では「中国に朝貢外交をしたも同然」とする声まで出ている。

 韓国紙・文化日報は社説で「中国が野党訪中議員団を歓待したのは彼らが立派だからではなく、中国の好みにピッタリ合うためだ。裏返せば韓国の国益に反する可能性が大きい」と指摘している。