変質する韓国ろうそくデモ
朴大統領退陣に追加要求
親北議員釈放からTHAAD反対も
韓国の国政介入事件をめぐるソウルの大規模ろうそくデモが変質している。従来通り朴槿恵大統領の即刻退陣などを求めつつも、服役している元親北議員の釈放運動をしたり、北朝鮮の弾道ミサイル迎撃のため配備される高高度防衛ミサイル(THAAD)の導入に反対するなど、事件とは直接関係のない問題まで持ち込まれ始めた。(ソウル・上田勇実)
左派系市民団体が主導
反政権で連帯し政治利用
「朴槿恵は退陣しろ! 黄教安(〈ファンギョアン〉大統領代行の首相)は辞任しろ! 憲法裁判所は(朴大統領を)弾劾しろ!」
17日、ソウル光化門広場を中心に行われたろうそくデモは、いつものように司会者の音頭取りでスローガンが叫ばれた。デモ行進も国会で弾劾訴追案が可決され職務停止に追い込まれた朴大統領が住む青瓦台(大統領府)、権限を代行する黄首相の公館、弾劾の是非を審理する憲法裁の3カ所がターゲットとなり、近くまで歩を進めた。
しかし、この日のデモは少し様子が違っていた。まず目立ったのは、韓国親北派の影の実力者といわれた李石基(イソクキ)・元統合進歩党議員に対する釈放運動だ。李氏は親北路線で有名な統合進歩党(2014年に憲法裁が解散命令)から出馬し国会議員に当選した後、朴政権下で内乱扇動罪や国家保安法違反で有罪判決を受けて服役中だ。
この日、支持者たちと思われるメンバーがお揃(そろ)いのユニホームを着てデモ会場の至る所に簡易署名所を作って釈放賛同者を募ったり、李氏は冤罪(えんざい)だと主張する作家が書いた“真相本”を紹介していた。
李氏釈放はデモの趣旨とは異なり唐突な印象を与えていた。メンバーの一人に「なぜ国政介入事件とは直接関係ない李氏の釈放運動をしているのか」と尋ねると「朴政権下で監獄に送られたから」と答えが返ってきた。
今年7月に在韓米軍への導入が決定したTHAADに反対する主張も聞かれた。会場の一角に「THAAD決死反対」と記された鉢巻きをしたりプラカードを掲げる集団があったが、彼らはTHAADが配備される慶尚北道星州(ソンジュ)郡の住民だった。
住民が反対するのはTHAADのレーダーから出る電磁波が人体や農作物に悪影響を及ぼすという根拠に乏しいうわさを信じ込んでいるためだ。住民の一人である高齢女性は「朴大統領をはじめ金持ちは安全な所に住み、私たちのような力のない市民ばかり犠牲になっている。どうかろうそくの力で救ってください」と訴えていた。
14年に起きた大型客船セウォル号の沈没事故で犠牲になった高校生たちの遺族も大勢参加していた。ある女性の遺族は事件の真相を朴政権が隠していると批判した上で、反政府デモで逮捕された労組幹部の釈放まで求めていた。
事故当時、高校生たちが身に着けた救命胴衣を遺族に着てもらい、デモ行進に参加させるパフォーマンスも行われた。
親北議員の釈放運動、THAAD配備反対、セウォル号沈没の真相究明などはいずれも「反朴政権」で連帯が可能。彼らとしては自分たちの主張を広めるため、またろうそくデモの主催者側も裾野を広げるため互いに政治利用しているといえる。
ところで国政介入事件を受けて始まったろうそくデモは事実上これを主催する左派系の労働組合や市民団体がリードしているが、この日で8週連続と長丁場になりつつあることで資金的に余裕がなくなりつつあるようだ。
デモの最中、司会者に促され戦闘的路線で知られる全国民主労働組合総連盟(民主労総)の関係者が会場を回り、ペコペコ頭を下げながら募金していた。