混乱嘆く韓国を笑う北

崔順実容疑者の国政介入疑惑
異例詳報で連日の批判

 韓国の朴槿恵大統領が長年の知人、崔順実(チェスンシル)容疑者に内部文書を流出させたり、利益供与を図っていた問題で韓国社会が混乱気味の中、北朝鮮が連日この疑惑を詳報している。朴大統領の失態を、来年の韓国大統領選で政権交代を実現させ、対北融和政策を復活させる好機ととらえているようだ。 (ソウル・上田勇実)

「21世紀に摂政政治再現」
来年の親北政権誕生に期待

 北朝鮮はこのところ連日、国営メディアなどを通じた朴政権批判に余念がない。

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朝鮮人民軍第525軍部隊直属の特殊作戦大隊を視察する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(朝鮮通信=時事)

 まず朴大統領が疑惑と関連し初めて謝罪会見に臨んだ翌日の10月26日、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の機関紙・朝鮮新報は「朴槿恵とその血縁一族が引き起こした特大級の不正腐敗事件の真相が次々に明るみになり、政権が根こそぎぐらつき、民心は爆発寸前」と紹介した。

 10月30日付の党機関紙・労働新聞は「南朝鮮(韓国)の各界各層の闘争が全地域に急速に拡大している」として政権退陣デモに言及。朝鮮中央通信は急落する朴大統領の支持率と関連し「南朝鮮言論(韓国メディア)は、これは国民が朴槿恵に完全に背を向けたことを示すものと指摘」し、11月12日に予定されている「民衆総決起」というタイトルの反政府デモで「朴槿恵退陣闘争は蜂起的性格を帯びてさらに高潮すると伝えた」と報じた。

 このほか朝鮮中央テレビは特番で、疑惑の渦中にある朴槿恵大統領の「槿恵」と崔順実容疑者の「順実」をつなげ「『槿恵・順実号』が沈みかけている南朝鮮」と大真面目な顔で解説。対韓国宣伝メディアである「われわれ民族同士」には「封建時代の垂簾(すいれん)聴政(幼い皇帝に代わり皇后など女性が摂政すること)が21世紀の今日、南朝鮮でそのまま再現されている」と、3代世襲の前近代的独裁国家に皮肉られる始末だ。北朝鮮が「革命の対象」でもある韓国の出来事をこれだけ頻繁に「報道し非難の度を高めるのは異例」(韓国・聯合ニュース)。それだけ今回の疑惑は北朝鮮にとって利用価値が高い証拠なのだ。

 北朝鮮がこうした自国メディアで朴政権批判を展開する目的は、①国内向け体制優位宣伝②韓国世論の分断(南々葛藤)③韓国左派の扇動――などが考えられそうだ。

 早速③については、5日にソウル中心街で約4万5000人(警察推計)を集めた大規模政権退陣デモを扇動した勢力に対する影響などが憂慮されている。

 北朝鮮としては「国政介入疑惑を密(ひそ)かに楽しみ、社会の葛藤と混乱を扇(あお)ぎ、大統領選勝利など特定の政治的目的を達成しようという韓国左派」(韓国保守系シンクタンク)の“援護射撃”だ。

 近年、韓国は保守政権が続き、北朝鮮はまとまった経済支援を韓国から取り付けられずにいる。朴大統領の“オウンゴール”ともいうべき大失態で、来年の韓国大統領選で親北政権が誕生するシナリオも現実味を帯び始めた今、国政がマヒするほどの韓国の大混乱に一番笑いが止まらないのは実は北朝鮮かもしれない。

 一方、北朝鮮が韓国の混乱を新たな対南(韓国)工作、特に彼らが得意とする宣伝扇動分野におけるチャンス到来とみなしている可能性がある。

 ネット社会の韓国ではSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に流布される各種の噂(うわさ)に影響されることがしばしばあったが、今回の騒ぎでも検察に出頭した際の崔氏が実は「代役の別人」だったのではないかなどとするさまざまな疑惑絡みの噂が飛び交っている。北朝鮮が根拠のない朴大統領批判を意図的に流し、反体制感情を扇ぐことは十分考えられよう。