骨肉の経営権争い続く韓国ロッテ

“お口の恋人”苦味に歪む

 日本と韓国にまたがる大手企業ロッテが昨年のオーナー一家の経営権争いに続き、役員の自殺や現会長に対する検察聴取など揺れに揺れている。財閥5位(総資産基準)のロッテをめぐる一連の騒動に韓国経済への悪影響を心配する声も出始めている。(ソウル・上田勇実)

背任・横領容疑でトップ聴取
「日本移行説」に警戒感も

 お口の恋人ロッテ――。これは日本でチューインガムやチョコレートなどの大手菓子メーカーとして有名なロッテのキャッチコピーだ。またロッテといえば、今年のクライマックスシリーズ進出を決めたプロ野球の千葉ロッテマリーンズの親会社としてもお馴染(なじ)みである。

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20日、ソウル中央地検での取り調べを前に記者たちの質問を受けていた最中、親族から抗議を受ける重光昭夫・韓国ロッテ会長(韓国紙セゲイルボ提供)

 ところが昨年、そのロッテが韓国で各種事業展開する韓国ロッテの会長を務める重光昭夫(韓国名・辛東彬(シンドンビン))氏が、創業者で父の重光武雄(韓国名・辛格浩(シンキョクホ))氏、日本事業の責任者だった兄の重光宏之(韓国名・辛東主(シンドンジュ))氏らを相手取った経営権争いが表面化して以降、ロッテを舞台にしたドタバタ劇が収まらない。

 韓国メディアによると、事の発端は数年前、弟の昭夫氏が独断で韓国ロッテ製菓の株式買い増しを続け、これに兄の宏之氏も買い増しで対抗するなど兄弟間の確執がみられたこと。昨年末から今年初めにかけ宏之氏は日韓のロッテを統括する持ち株会社ロッテホールディングス(HD)の副会長をはじめグループにおけるすべての役職から解任され、父の武雄氏も代表権のない名誉会長に就くことが発表され、事実上、引退に追い込まれた。

 宏之氏は昭夫氏の会長解任などを求める議案を株主総会に提案するなど「反撃」に出たが、否決された。これには昨年、過去10年間で最大の営業利益を出した経営成果を重視した株主らが昭夫氏擁護に回ったことが関係しているとの観測が流れた。

 しかし、グループの裏金作りや横領、背任などの実態が指摘されるようになってから雲行きが変わった。昭夫氏は先週、総額約2000億ウォン(約182億円)以上に及ぶ横領、背任などの容疑でソウル中央地検に出頭し、取り調べを受けた。

 昭夫氏には、▽系列ゼネコンによる300億ウォン(約27億円)以上の裏金作り▽企業の合併・買収(M&A)を通じ発生した巨額の損失を系列会社に負わせた▽日本のロッテグループの系列会社に役員として名前だけ連ねることで毎年約100億ウォン(約9億円)以上の給与を受け取っていた――などの疑惑が浮上しているという。

 ただ、検察の捜査が進行する中、韓国ロッテの副会長が自殺。捜査は難航するとの見方も出ている。

 韓国では財閥トップの不正疑惑が浮上するたびに、時の政権との“距離”が捜査のさじ加減を決めるといわれるほど政経癒着が問題視されてきた。また財閥が経済全体に示す影響度の大きさからトップ逮捕に慎重になる傾向もしばしば見受けられた。

 朴槿恵大統領は就任前、公約の「経済民主化」と関連し財閥が慣例のように行ってきた系列社間の内部出資を制限する方向で財閥改革を進めると言っていたが、ロッテも不透明な内部出資が取りざたされていた。今回のロッテへの捜査が朴政権の意思や方針とどう関係するのか知りたいところだ。

 ところでロッテ会長聴取のニュースに韓国世論は別の意味でも関心を寄せている。会長が逮捕されれば韓国ロッテの持ち株会社ロッテHDの大株主である日本人役員らに事実上の経営権が移る可能性があるためだ。「日本の会社に転落するかもしれないという懸念」(韓国紙東亜日報)が韓国社会に広がっているのだ。

 もともとロッテは戦後間もなく武雄氏がチューインガムからスタートしたまぎれもない日本発の企業で、韓国進出は創業から約20年後のことだ。

 しかし、韓国でロッテといえば流通、飲食、ホテル、建設、金融、電子機器など多分野にまたがり、韓国人が誇る「国民的企業」の一つ。このため経営権が日本人に移ることには相当、抵抗があるようだ。