読書の変身
韓国紙セゲイルボ・コラム「説往説来」
小学校1年の学歴しかないリンカーン米大統領の最高の師は本だった。幼い頃の彼は経済的に貧しかったが、魂は誰よりも豊かだった。いつも手に本を持っていたためだ。少年リンカーンは本1冊を借りるため十数㌔の山道を歩いた。
彼が知人から借りた本はワシントンの伝記だった。初代米大統領のワシントンも自分のように家の暮らし向きが苦しくて小学校に2カ月しか通えなかった。リンカーンは本を通してワシントンの品性をそのまま受け継いだ。彼の正直さ、包容精神はすべて本から学んだものだった。
ワシントンにも偉大な師がいた。ローマを危機から救ったキンキナトゥスだった。キンキナトゥスは最高の官職である独裁官を務めた人物だ。彼は官職を退いた後、田舎で畑仕事をしていたが、蛮族の侵入でローマが危機に陥ると、この最高職に就いて敵を撃退した。その後、すぐに農村に帰って鋤を握った。彼が最高統治者に就いた期間はわずか16日だった。
キンキナトゥスの生涯はワシントンに伝授された。ワシントンの一生は本の中の英雄の行動そっくりだった。彼は本の中のキンキナトゥスと対面した。独立戦争を勝利に導いた後、終身大統領の提案を受けたが、断固拒否し、ローマの英雄のように田舎で農夫として暮らした。
本の中には偉大な道がある。成功した人物で本を遠ざけた人間は捜すのが難しい。米国のビル・ゲイツ、オプラ・ウィンフリー、韓国の鄭周永に至るまで、富と成功にはいつも本が同行した。「家を富まそうと良田を買う必要はない。本の中には多くの穀物がある。安全に暮らそうと高い家を造る必要はない。本の中に黄金で飾られた邸宅がある」。幼いころによく聞いた北宋・真宗皇帝の勧学文の通りだ。
近ごろ若者たちの間で「ブックム」「チェンメク」という新造語が出回っているという。ブックムは酒を飲みながら週末(金曜)の夜を過ごすプルグム(燃える金曜日=ハナキン)になぞらえて、金曜夜にブックバーや深夜書店で本を読む新風俗を表す言葉だ。青年たちは酒を1杯注文し1人がけソファーやバーに座って本を読む。チキンとビール(メクジュ)を組み合わせたチメクの代わりにビールを友として本(チェク)を読むチェンメクもよく見られる。
本は澄み切った精神で読むべきだ。既存世代のこんな固定観念もいまや捨てる時が来たようだ。読書の変身は無罪だ。本を遠くしてきた若者の間で広がる読書の新風俗図が、ただうれしく喜ばしいばかりだ。
(7月4日付)
※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。