北朝鮮、民生重視より先軍政治 幹部粛清・恫喝外交変化せず
北朝鮮の回顧と展望
宮塚コリア研究所代表 宮塚利雄氏に聞く
――北朝鮮の1年を振り返って、金正恩(キムジョンウン)の権力基盤は拡大・安定したのか。
この1年は金正恩政権にとっては明るい話題はなかった。足を引きずって会議場に現れたり、ミサイル発射を示唆して周辺国家を威嚇するという常套(じょうとう)手段の「弱者の恫喝(どうかつ)」の乱用、度重なる党や軍幹部の粛清などで、国内外からの評判・評価は低い。
特に、幹部の粛清は権力を継承してから4年の間に70人から100人に達するといわれ、少なくない幹部が中国に逃亡しているが、このような「相次ぐ幹部の粛清」は、金正恩体制が「恐怖統治」によって維持されていることを示している。
――最近、民生重視の姿勢を示しているというが。
そうは思えないし、また、そのような施政を行ったら体制が崩壊することを金正恩はよく知っている。金王朝が存続できるのは三代にわたって「先軍政治」、すなわち軍を中心とした国家・人民支配体制を維持できたからである。
――「水爆保持」表明など、核開発の現状は。
金正恩が平川革命史跡地(事業地)を現地指導した時に、「わが祖国は強大な核保有国となった。水素爆弾の爆音を轟(とどろ)かせることができる」と発言したというが、本当に完成した上での発言かは疑問である。人工衛星の例もある。海外の政府やメディアは事実を確認してから、右往左往しても遅くない。
――対中関係の推移・変化について。
中朝関係は北朝鮮が親中国系の張成沢(チャンソンテク)を粛清する前から盤石な関係ではなかったが、張成沢の粛清・失脚後は中朝関係はあからさまに険悪な関係になってきた。9月に行われた中国の「抗日戦争勝利記念70年」軍事パレードに金正恩は出席せず、代わりに出席した崔竜海(チェリョンヘ)はひな壇最前列の一番端に座らさせられ、要人と会うこともできず当日平壌に帰った。
これに対し中国は「朝鮮労働党創建70年記念」軍事パレードに、共産党序列5位の幹部を派遣し、金正恩もこの人物をひな壇で最大限の歓迎するポーズを見せ、中朝がかつてのような友好・親善関係を回復しているように思わせた。しかし、12月に北京に来た北朝鮮の芸術団が突然帰国するなど、両国の関係がいまだにぎくしゃくした状況にあることも露呈した。
中朝国境調査で会った中国人の貿易関係者は、国家間レベルの政治・外交問題はともかく、国境沿いでの辺境貿易は以前の通りで、密輸も頻繁に行われている。ただ、北朝鮮からの脱北者は減ってきていると言っていた。
――本格的な南北交流ははじまるのか。
韓国や北朝鮮政府も口を開けば「南北統一」が最大の政治目標としているが、分断後70年たっても未(いま)だに統一実現の気配すらない。「南北離散家族再会」など、どれも「その場しのぎの交流」としか思えない。極論するなら、両国の政府も国民も本当に「統一」を願っているのだろうか、と言いたくなる。
――2016年の北朝鮮はどう動いていくか。
北朝鮮は核やミサイルの開発は続けていくだろう。対中関係は中国が主導した形で両国の関係改善、交流は行われていくだろう。
対米関係の改善は北朝鮮にとって最大の外交懸案であるが、今のような核・ミサイル発射等の恫喝外交を続けるかぎり、変化はないだろう。北朝鮮政府は自国内の「政治犯収容所における人権人道問題」の解決などを、米政府に証していかなければならない。
対日関係については、北朝鮮側がストックホルム合意(2014年5月)に基づいて拉致被害者の再調査を約束し、その結果を発表すると言っていたのにもかかわらず、2年近くが過ぎた。日本政府の無能さと、北朝鮮政府の不誠実さが露呈した中で、日本と北朝鮮の友好親善の促進などはあり得ない。
(聞き手=岩崎 哲)