駐韓米大使襲撃、親北反米主義を警戒せよ
リッパート駐韓米大使がソウル市内で左派系市民団体代表の男に襲撃され、大けがを負う事件が起きた。安全保障上、最も重要な関係にある国の大使が襲われるという前例のない事態に韓国社会は衝撃を受けている。
過去には日本大使も
事件は、保革両陣営が参加して南北問題に取り組む団体が主催した早朝の大使招請講演会の場で起きた。大使が会場に到着し、メーンテーブルに着席した直後、男は走り寄って密かに準備していたナイフで大使の顔を切り付けるなどした。
大使はすぐに近隣の病院に搬送され、80針余り縫う手術を受けた。命に別条はなかったが、国家を代表する大使への卑劣な行為は決して容認できない。
男は襲撃した際、米韓軍事演習を批判したとされる。今月から始まった演習に抗議する政治的目的のあったことがうかがえる。また金大中・盧武鉉両左派政権時代に7回訪朝するなど、親北反米主義者の一面をのぞかせていた。
男は「独島(島根県・竹島の韓国名)守護」を訴える市民団体を立ち上げ、2010年には講演会で竹島について言及した当時の重家俊範駐韓大使にコンクリート片を投げつけ、外国使節暴行罪で懲役2年、執行猶予3年を言い渡されるなど、たびたび過激な行動を起こしてきた「危険人物」だった。
米韓両政府は今回の事件を「許し難いテロ行為」として糾弾する一方、同盟関係に悪影響が出ないよう努力していくことで一致した。北東アジア安保における日米韓3カ国の協力体制の重要性に鑑み、こうした対応は評価できる。
中東歴訪中の朴槿恵韓国大統領は、リッパート大使に電話で「前に似たような経験をしているので、大使がどれほど苦しいか理解できる」と述べた。朴大統領は野党代表時代の06年、ソウルで暴漢に顔の右側を刃物で切られ重傷を負った。
事件は、韓国社会がいまだに一部の親北反米主義者によって揺さぶられてしまうという脆(もろ)さを露呈させた。男は在韓米軍撤収などをはじめ米韓分断を画策してきた北朝鮮の影響を多分に受けてきた可能性がある。08年の李明博政権下で起きた米国産牛肉輸入再開反対の大規模デモ集会のように、巧みな宣伝、扇動で瞬く間に大衆が反米運動に巻き込まれた例もある。
講演会の会場は、大通りを挟んで米国大使館の真向かいに位置する至近距離にあった。韓国の警察には外交官に対する特別な警備義務はなく、大使館側からも大使の身辺警護を要請されていなかったとはいえ、結果的に襲撃を許してしまった韓国側の責任は免れない。
警察は、米国大使館をはじめ各国の公館や大使公邸、施設に対する警備を大幅に強化することにしたというが、今回の事件で比較的治安がいいとされてきた韓国の対外的イメージのダウンは避けられない。
関係崩す勢力と隣り合う
韓国は、同じような事件を繰り返さないためにも、自由民主主義と市場経済という共通の価値観で固く結ばれた関係を崩そうとする勢力に対し、警戒を怠ってはならない。
(3月7日付社説)