自慢の「K防疫」窮地に 韓国

「日常回復」後に感染急拡大
事態悪化なら大統領選に影響

 これまで世界的にも感染防止の優等国と見なされてきた韓国で新型コロナウイルスの新規感染者が急増し、文在寅大統領が自画自賛してきた「K防疫」が窮地に立たされている。感染拡大に歯止めがかからない場合、政権批判が高まるのはもちろん、来年3月の大統領選で与党候補が不利になることも予想される。
(ソウル・上田勇実)

北もコロナ情報窃取図る

 今月1日午後、韓国への出張を予定していたある日本人ビジネスマンが都内の駐日韓国領事館で、入国後に義務付けられている2週間の隔離を免除してもらう許可書を受け取った。ところが、その日の夜、韓国保健当局は水際強化の一環として、すでに許可済みの人も含め隔離免除許可の効力を一時停止すると発表した。関係省庁に事前通達する間もなく、文大統領による急転直下の決断だったことをうかがわせるものだ。

ソウル市内で行われる新型コロナウイルスの検査=9月24日(EPA時事)

 文大統領はワクチン接種率が7割を超えたことを受け、「段階的な日常の回復(ウィズコロナ)」を謳(うた)い、11月1日から感染防止のための各種規制を大幅に緩和させていた。飲食店の営業時間は午後10時まで延長され、飲酒を伴う夕食の集まりでも首都圏で10人まで制限が緩和された。コロナ禍で経営難に追い込まれている飲食関係の自営業などを救済し、経済を回復させる狙いもあった。

 ところが、新規感染者が急増。先週は3日連続で全国7000人を突破し、病床稼働率も首都圏のソウル市や仁川市で90%を超え、病床が確保されないまま治療を受けられずに死亡する例も急増した。

 仮に一日の新規感染者数が1万人に達した場合、最も感染者数が多かった時の日本(今年8月)と人口対比でほぼ同じ水準になる。それは「K防疫は日本の防疫より優れていると信じたがる」(韓国予防学専門家)韓国世論を失望させかねない事態でもある。

 これを受け、国内では「K防疫」への批判が高まっている。特に最高責任者たる文氏が「K防疫を自慢する時には前面に出てきたのに、今は報道官を通じてメッセージを伝えている」(韓国メディア)ので、火に油を注ぐ格好だ。

 防疫優先路線から経済回復路線に舵(かじ)を切った途端に感染者が急増したのに加え、感染力が強いと言われるオミクロン株の感染者が海外だけでなく国内でも発見された。それにもかかわらず文氏は、ウィズコロナの中止を意味する「非常計画」の実行を見送り、水際強化もぎりぎりまで悩んでいた節がある。K防疫の限界を自認したくないという我の強さがなせる業だとの批判も上がった。

 こうしたK防疫の危機が残り3カ月を切った来年の大統領選挙にどう影響を及ぼすのか。このまま感染者が増え続けたり、重症化や致死率が悪化すれば「間違いなく与党『共に民主党』公認の李在明候補に不利に働く」(政府系シンクタンク関係者)とみられる。

 ただ、「不動産に絡む不正疑惑など深刻な国内問題が多く、選挙への影響はそれほど大きくはない」(元韓国政府高官)との見方もある。実際に文大統領の支持率は先週の調査(韓国ギャラップ)で38%と前週から横ばい。次期大統領候補の支持率も先週末の複数の調査で李氏は40%前後。保守系野党「国民の力」公認の尹錫悦氏(約42~45%)との差をむしろ縮めている。

 ところで、北朝鮮の感染者数は公式にはいまだゼロだが、実際は感染が拡大していることを物語る動きもある。

 韓国の情報機関、国家情報院の傘下にあるシンクタンクは先日の報告書で、北朝鮮のハッカー組織が今年、コロナ治療薬を開発中の韓国製薬会社やソウル大学病院をはじめとする韓国の病院をサイバー攻撃したことに言及、「コロナ関連の医療情報を窃取するための攻撃」との見方を示した。北朝鮮はワクチンや治療薬の情報窃取に躍起になっているようだ。