大統領選控え、対日関係改善を模索する韓国
「反日」から「用日」へ、日本は中国制御用の“パートナー”
韓国メディアで「対日関係改善」を文在寅(ムンジェイン)政権に求める論調が目に見えて増えてきた。メディアには「反日不買」を煽(あお)ってきた一面もあるのに、悪夢から覚めたからなのか、気持ちの悪いほどの“秋波”である。
もちろん、一部の保守メディアでは日韓関係を最悪にした文政府の対日政策を批判し、対応・対策を訴える論調はあったが、「日本とは全面的な協力関係を築かなければならない」(申孟浩(シンメンホ)元駐カナダ大使)などと言い切られると、いつの間にフェーズが変わったのかと少し“置いてきぼり”にされた感がある。つまり、それだけ日本の対韓認識は動いていないということだ。
申元大使の論考を載せたのは東亜日報社の総合月刊誌新東亜(5月号)。「韓国が5大外交座標をとらなければならない理由」と題して、国益、対米、対中、対日、対北の五つの観点から論じている。
韓国は地政学的位置から常に「国益の最も重要な要素の『安保』と『経済的実益』の選択」で苦慮してきた。つまり安保では米韓同盟を基軸としながらも、経済では中国に大きく依存しているというねじれだ。しかも中国は往々にして韓国安保の脅威になり得る。従って安保と経済の選択は容易ではない。
韓国・朝鮮は歴史的に「事大外交」を展開してきた。事大とは大に従うことで、その時の大国に臣従するというものだ。かつては中国大陸の王朝であり、アジアでいち早く近代化した日本であり、その日本を負かした米国であった。これに再び「崛起(くっき)」する中国の登場が方程式の難易度を上げているのだ。
その中で「中国という脅威を制御できるパートナー」は日本だという。これ自体はしごくまともな情勢判断だし、日米韓の3国協力は日米両国が繰り返し韓国に求めてきたものだ。しかし、その際、韓国の“国是”とも言っていい「反日」はどうなるのか。申元大使は、「今の国際関係はわれわれが過去の歴史にこだわるほど暇ではない」とあっさりと言ってのける。
これが日本人には理解できない。「慰安婦」「徴用工」などの歴史懸案であれほど反日を叫び、国家間の約束を反故(ほご)にし、福島第1原発からの処理水を「汚染水」として国際社会で悪宣伝する一方で、自ら壊した対日懸案を整理もせずに、白々しく「パートナー」と呼び掛けてくる神経が、だ。
いわゆるこれが「用日」なのだろう。眼前の脅威に対応するには、かつて自分が何を行ってきたかに関係なく、手を組もうというものだ。対中姿勢をいつ変えるかも分からず、裏で日本批判をしておきながら、表では手を組もうなどというご都合主義に乗るほど日本はお人よしではない。
元外交官で「21世紀共和主義クラブ」の金東圭(キムドンギュ)政策委員長は月刊中央(5月号)で、日韓関係を「外に敵を設けて内部を団結させる」「敵対的共生」関係だと説いた。
韓国は「反日」が国是だから、なるほどそうだ、と思うが、日本は韓国叩(たた)きをして政治的に利用しているという感覚は、日本国民にはない。世論調査でも「外交」が選挙の争点になることはないし、従って韓国を叩いて政権の支持率が上がるということもない。韓国大統領が政権末期、日本叩きをして支持率を上げるパターンは日本にはないのである。
金氏の分析で面白いのは、韓国側が「殴ってもなかなか関係が破綻する危険性が少ない」とみていることだ。日本に対する見くびりであり、韓国側の“甘え”がここにある。だから申元大使のように、白々しく「パートナー」と言ってくるのだ。
金氏は「韓国の反日が日本の嫌韓より強い」としつつ、「ところがその根元は日本の嫌韓が韓国の反日より“深い”」という。本質を突く分析である。韓国側はそこを分かっているから、そろそろ対日関係を変えなければ、日本は我慢の限界を超える、という見切りをし始めたのだ。本能的な感覚なのだろう。
日本政府は既に「文政権のうちは改善はない」と放置している。対日関係改善の記事は、既に始まった次期大統領選の局面の一つだ。候補になろうとする者は対日関係をどうするかが問われる、ということだ。その次元の論調であることを押さえておく必要がある。
編集委員 岩崎 哲