随所で脱北者冷遇 韓国・文政権
 韓国入りする脱北者が至る所で冷や飯を食わされている。金正恩朝鮮労働党総書記をできるだけ刺激したくない文在寅政権が水際で強制送還したり、高位脱北者たちが定着後にまともな仕事に就けないといった事態が発生、その噂(うわさ)は脱北を考えている北朝鮮住民たちにも広がっているようだ。人権弁護士出身の文氏だが、脱北者の人権には正面から向き合おうとしていない。
(ソウル・上田勇実、写真も)
北で「強制送還」の噂
元外交官らに就職斡旋せず
「2009年9月27日夜、咸鏡北道金策市を出発した北朝鮮の住民11人は、東海の公海上を経由する4日間の航海の末、10月1日、江陵市注文津付近から亡命した。彼らは韓国への憧れと自由を得るため、北朝鮮当局の厳しい統制網をくぐり抜け、死を覚悟した挑戦により北朝鮮からの脱出に成功した」
これは日本海に面する韓国北東部の江陵市にある「統一公園」に展示された古びた木造船の前に建てられた看板の説明文だ。
この船に乗って韓国亡命を果たした脱北者たちに限らず、これまで多くの脱北者は韓国にたどり着けば身の安全が保障され、北朝鮮で嫌というほど味わった食糧難から解放されるという希望を抱いてきた。韓国側も木造船を保存して安保教育に活用、脱北の「成功」を評価していたことが分かる。
しかし、韓国に対北融和路線を掲げる文政権が発足すると、脱北者を取り巻く環境は一変した。
先月16日、上記の脱北者と同じように日本海を南下し、海上の軍事境界線を越えて韓国側に到着した北朝鮮男性は近くにあった韓国軍の監視所へは行かず、民家に助けを求めた。
このことについて徐旭・国防相は「(その脱北者は)軍へ行けば北に強制送還されると思ったから民家へ行った」と明らかにし、波紋を広げた。脱北者が「韓国軍を北朝鮮軍や中国軍に対するのと同じように疑っている」(保守系大手紙・朝鮮日報)ことを如実に示すものだったからだ。
文政権下では一昨年、船で亡命した漁民2人を、同僚船員たちを殺害した容疑があるとして十分な取り調べをしないまま犯罪者引き渡し条約も結んでいない北朝鮮に送還するという衝撃的な出来事があった。この事件をはじめ文政権の脱北者冷遇が北朝鮮住民に心理的圧迫を与えている可能性は十分ある。
脱北者支援を行う韓国統一省傘下の南北ハナ財団で理事長を務めた孫光柱氏はこう指摘する。
「今や韓国に定着した脱北者は約3万4000人。彼らが北に残した家族や親戚への仕送り、脱北の手引きなどで頻繁に電話していることを考えると、特に脱北を考えている北朝鮮住民の間では強制送還のような出来事は瞬く間に知れ渡る」
昨年10月、すでに1年以上前に韓国に亡命していたことが判明したチョ・ソンギル元駐イタリア代理大使夫妻や、同じく亡命から1年以上経過した今年1月になってその事実が明らかになったリュウ・ヒョヌ元クウェート代理大使夫妻のケースからも、正恩氏の機嫌を損ねないよう腐心するかのごとき文政権の姿が浮かび上がる。
両氏の場合、高位脱北者として亡命した事実が意図的に伏せられていただけでなく、本来なら斡旋(あっせん)されるはずの情報機関傘下シンクタンクなどへの就職も見送られたままだ。リュウ氏に近いある脱北者によると、リュウ氏がシンクタンクに就職できない理由を韓国政府に問いただしたところ、「研究員の空きがないから」と言われたという。そのような理由で高位脱北者がシンクタンク就職を断られるのは異例だ。
このほか北朝鮮民主化を訴える脱北者団体に対する政府支援金が打ち切られたり、各テレビ局が脱北者への出演依頼を控えるなど、文政権下で脱北者はどんどん肩身の狭い思いを強いられている。
韓国への脱北者入国数(グラフ参照)は正恩氏が指示したとされる中朝国境警備の強化などで12年に減少傾向に転じ、昨年はコロナ禍でさらに激減したが、文政権下で冷遇されるという認識が北朝鮮住民に広がっていることも無関係ではないかもしれない。





-300x195.jpg)






