南北連絡事務所の爆破 金与正氏の指導力誇示
【解説】
敵対姿勢で韓国揺さぶり
北朝鮮が南北連絡事務所の爆破に踏み切ったことには、少なくとも二つの狙いがありそうだ。まず金正恩氏の妹、与正氏の指導力を内部的に誇示することだ。
与正氏は韓国脱北者団体による対北ビラ散布を非難する談話を契機に対韓国政策を総括する責任者として公認され、北朝鮮国内での権威付けが進んでいた。与正氏は13日の談話で「連絡事務所が跡形もなく壊される光景を見ることになろう」と予告、実際に爆破しそれが単なる脅しでないことを見せつけた。
最近、党機関紙・労働新聞にはかつて後継者を指した「党中央」という表記がたびたび登場するようになり、これが健康不安を抱える正恩氏が後継者として育てようとしている与正氏を示唆するとの見方が浮上した。北朝鮮で30代初めの女性である与正氏が後継者になるには指導力誇示が不可欠だ。
また韓国に過剰ともいえるほど敵対的な言動を示し、北朝鮮との経済協力再開に踏み出せないでいる文在寅政権を揺さぶる狙いもあるようだ。
北朝鮮にはトランプ米大統領との首脳会談を制裁緩和につなげられず、仲介役を買って出たもののトランプ氏を説得し切れなかったという文氏への不満がある。敵対ムードを広げ、文氏が北朝鮮への経済支援にどこまで動くか見極めようとしている可能性がある。
北朝鮮を刺激しまいという配慮なのか、爆破直後に韓国で開かれた国家安全保障会議(NSC)は軍の統帥権者である文氏ではなく、安全保障担当の青瓦台(大統領府)側近が主催した。だが、これ以上、北朝鮮への融和策にこだわれば弱腰と批判されかねず、難しい舵(かじ)取りを迫られそうだ。
(ソウル・上田勇実)