不在騒動、最大受益者は金正恩


韓国紙セゲイルボ

 20日ぶりに健在を誇示した北朝鮮の金正恩国務委員長の不在騒動だが、その裏では情報工作が展開されていた。北最高指導者の身辺確認でも、これに対する遮断作業自体が情報工作、欺瞞、かく乱の連続だ。

 外国メディアや脱北国会議員当選者たちの金委員長重体説に、各国政府機関が情報資産を動員したり、民間次元でも情報収集に出た。その過程で少なくない北への情報力量の露出があった可能性を排除することはできない。

 国家情報院出身の共に民主党金炳基議員が健康異常説を提起した脱北政治家(太永浩当選人・元駐英北朝鮮公使)に、「(本当に)情報があればスパイ」と言ったことは、こうした総体的過程を念頭に置いた憂慮と見ることができる。

 「金委員長死亡99%」主張(池成浩当選人・脱北者出身)もソースがなかったり不確かならば、国民を相手にした虚言で、ソースが本当にあるならば、そのソースは99%危険だ。

 北体制の特性上、金委員長身辺に異常がある場合、直ちに知ることが出来る人物は一握りにもならない。李明博政権の外交安保首席を歴任した千英宇韓半島未来フォーラム理事長が金正恩再登場の前に、「金正恩の身辺異常を知るのは神通力の領域であって、情報の領域ではない」と多少、果敢な表現で死亡説の信頼性に疑問を提起した背景だ。

 特に過去、金日成主席・金正日総書記の事例で見るように、北最高指導者の身辺異常に対するリアルタイムの把握よりは、その後の北の展開や韓国側の対応がさらに重要だと言える。

 今回の騒動の発端は金委員長の太陽節(4月15日金主席出生日)錦繻山太陽宮殿参拝行事への不参加から始まった。コロナ19感染のための休養説が議論されるが、相変らず釈然としないのも事実だ。今後、太陽節行事には出ないという新しい儀礼の可能性もあって、高度な政治的計算でもある。

 とにかく北朝鮮当局が意図しようがしまいが、今回の騒動の最大受益者は金正恩自身だということだ。“死んで復活して”存在感はより一層増したし、邪魔な人間だった脱北政治家たちと反北朝鮮ユーチューバーらは狼少年に転落し、防諜活動には弾みがついたからだ。
(金青中東京特派員、5月4日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。

ポイント解説

明らかになった後、判断する

 紙数の関係で割愛したが、金青中特派員は記事で、太平洋戦争時、日本軍が米軍に暗号を解読され、ミッドウェー海戦に敗北した情報戦を紹介している。米軍は日本海軍の攻撃地点を探るため、偽情報を流し、日本はまんまと引っかかった。

 同じように今回のことで北朝鮮は情報流出ルートや南や関係国の情報力量をある程度把握したことだろう。何を北が知ったかは手の内を曝すことになるから明らかにすることはないにしても、確実に韓国や米国の力を推し量る材料を得ているはずだ。

 同時に、北にも現政権にも目障りな2人の北出身国会議員当選者の“信用”を失墜させるのに成功した。これにより元北外交官の太永浩氏と脱北者の池成浩氏は謝罪に追い込まれた。本来、国会での正確な北情報を期待された両人は「狼少年」の烙印を捺され、今後全く信用されなくなるであろう。北の高笑いが聞こえてきそうである。

 ただし、こと北情報に関しては「明らかになった後、判断する」のが基本だ。依然、金正恩の健康不安説は消えていない。祖父金日成命日行事の太陽節欠席、週に1、2回は出していた「方針」がこの間出ていない、歩行に難がありカートを利用、など“健在”を疑わせる事例が伝えられており、「金正恩の出現」がそのまま彼の正常を裏付ける、というわけでもない。まして肥料工場で映っていた人物が“本物”なのかの疑いも消えない。

 韓国政府は情報が出た当初から「異常は感知していない」と言い切っていたが、文在寅政権が北の奥の院の内情に詳しいか、北に操られているらしいことは明らかになった。
(岩崎 哲)