韓国野党惨敗、背景に世論左傾化も


 先の韓国総選挙で保守系の最大野党、未来統合党が惨敗した背景に韓国社会の左傾化があるとの見方がでている。文在寅政権の失政に対する失望以上に保守派を敬遠したい思いが勝る無党派が増えているとみられ、再来年の大統領選挙でも保守系候補の苦戦を予想する声が聞かれる。(ソウル・上田勇実)

文政権批判より保守敬遠
次期大統領選でも苦戦か

 選挙で与党が圧勝したのは、有権者が新型コロナウイルスの感染拡大という非常事態に意識が奪われ、冷静な中間評価を下せなかったからとの見方が大半だ。だが、韓国の識者の多くはそれだけではないと口を揃(そろ)える。

黄教安代表

15日、ソウルで総選挙の惨敗を受けて辞意を表明する韓国最大野党「未来統合党」の黄教安代表(EPA時事)

 「未来統合党が旧態依然の内輪もめに明け暮れ、国民に感動を与えられなかった」「有権者がSNSに広がるフェイクニュースを信じ、客観的な情報を得られなかった」などと、さまざまな分析がなされているが、中でも根本原因として指摘されたのが「世論の左傾化」だ。

 ある保守系市民団体の関係者は「国民の意識の左傾化が保守惨敗の背景にあるが、左傾化はもう随分前から始まっていた」と述べる。その出発点には1980年代の左翼学生運動があり、その後の金大中・盧武鉉・文在寅左派政権の誕生とそれに伴うメディアや教育の左傾化が世論の左傾化をもたらしたとみられる。

 また、ある公安問題専門家はさらに踏み込んで「保守は思想戦で負けている」と語る。「保守=親日派」「保守=弾劾された朴槿恵前大統領に近い積弊勢力」という革新陣営によるプロパガンダが浸透する一方、保守派が文政権を「親北反米だ」と批判する声はそれほど響かなかったのは確かだ。

 結局、韓国社会の左傾化で文政権の失政は革新系の与党、共に民主党にとって致命傷にならずに済んだ。

 韓国政治に詳しい康元澤ソウル大学教授は韓国大手紙への寄稿で「文政権に対する失望がどんなに大きくても、未来統合党の方がより遠くに感じられた多く人たちが与党、共に民主党に票を入れた」と指摘している。

 康教授は与党系の議席で3分の2以上を占めたことについて「もう保守は政治的に少数派、非主流になった」とし、刷新できなければ「今後しばらくは選挙で勝つのは難しい」との見通しも示した。

 未来統合党はその前身のセヌリ党や自由韓国党の時代を含め、前回の2016年総選挙、17年大統領選、18年統一地方選、今回の総選挙の計4回の主要選挙に連続で敗北を喫している。このまま何もしなければ再来年の次期大統領選でも苦戦は避けられない。

 韓国は南東部の慶尚道が保守政党、南西部の全羅道が革新政党のそれぞれ岩盤支持層になってきた。今回の選挙でもその傾向は変わっていない。このため世論の左傾化は若者や30代・40代の人口が多く、選挙の行方を左右してきた無党派が占める割合が多い首都圏で強まっているということになる。

 世論の左傾化でもう一つ挙げられる特徴は、これまで保守的と言われてきた50代でも左傾化が顕著になっていることだ。世論調査機関の韓国ギャラップが投票日前日に実施した調査によると、総選挙で文政権を「支援すべき」と答えた人は全体の56%で、「牽制(けんせい)すべき」(34%)を大きく上回った。60代以上を除く全世代で同じ傾向が表れている。

 こうした現象は、建国に関わった李承晩大統領や「漢江の奇跡」と称される高度経済成長を牽引(けんいん)した朴正熙大統領の時代に北朝鮮に対抗する反共主義で団結し、自由民主主義に自負を抱いてきた60代以上の世代からしか、もはや現在の韓国保守政党が安定的な支持を得られなくなっていることを物語っている。

 日本もこうした世論左傾化の韓国にどう向き合うのか問われることになる。