在仏クルド人、トルコのシリア北東部攻撃に抗議

 トルコ軍がシリア北部に侵攻し、民間人を含むクルド人の犠牲が出ている問題を受け、在仏クルド人らが抗議の声を上げている。同時にシリアのクルド勢力支配下で収監されていたイスラム過激派(IS)の元戦闘員らが逃走しているため、彼らの中の仏国籍者がフランスに帰国し、テロを実行する可能性も高まっている。
(パリ・安倍雅信、写真も)

ISの元戦闘員が逃走
懸念されるフランスでのテロ

 10月19日、49回目となる毎週末に行われるマクロン政権に反対する黄色いベスト運動には、仏国鉄(SNCF)の運転士や、米電機メーカー大手GEの大規模なリストラに反対する労組などが加わり、全国で抗議デモが行われた。同日午後にはパリで、トルコ軍や民兵によるシリア北部の攻撃に抗議するデモも行われた。

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パリ市内を行進する在仏クルド人と支援者たち(10月19日撮影)

 主催者発表で約5000人、警察発表で1700人の在仏クルド人及び支援者らがパリのレピゥブリック広場を出発し、「ラジャヴァ(シリアのクルド勢力支配地域)を守れ」と口々に叫びながらデモ行進を行った。

 彼らはまた、トルコに投獄されているクルディスタン労働者党(PKK)の指導者、アブドラ・オカランの釈放や、今回の軍事攻撃を主導したトルコのエルドアン大統領に対して「エルドアン=ダーイッシュ(IS)」のプラカードを掲げてデモ行進を行った。

 実際、10月9日に開始されたトルコ軍及び民兵によるクルド支配地域への攻撃には、民兵に交じってISに近い戦闘員が参加していたことが確認されている。ISとの戦いで戦闘に加わった在仏クルド人も少なくない。

 在仏クルド民主評議会のメンバーの一人は「ISとの戦いで1万1000人のクルド人が犠牲になったが、われわれは当然の義務として有志連合からの感謝は求めなかった」と語り、「にもかかわらず今度はエルドアンが欧州に脅しを掛け、攻撃を支持するように呼び掛けている」と非難した。

 エルドアン氏はトルコと国境を接するシリア北東部のユーフラテス川以東地域に全長400キ  ロ、幅30キ  ロの安全地帯を設置する提案を行っている。目的はトルコで預かっている360万人のシリア難民の帰還場所にしたいからだ。欧州連合(EU)は、エルドアン氏の提案地域はクルド勢力の支配地域であるため支持していない。

 攻撃のきっかけは、10月6日のトランプ米大統領による米軍撤退決定を受けてのことだった。目的はクルド勢力が支配する同地域がテロリストの潜伏地域だとして一掃するのが目的だとしているが、その解釈に欧州は賛同していない。

 EUが注視しているのは、同地域で拘束されているIS元戦闘員らが攻撃の混乱に乗じて逃げ出している問題だ。実際、収容所には約1万2000人の捕虜が収容され、約800人の欧州出身者がいるとされる。フランス国籍者の割合は多く、そのうち60人は非常に危険なフランス人戦闘員だとされている。

 フランスを含むEUは、彼ら捕虜の本国への移送を拒絶しており「テロリストはテロを行った地域で裁かれるべき」との立場だ。テロリストの本国送還を求めるアメリカとは考え方が異なる。

 ルドリアン仏外相は「トルコのクルド人勢力支配地域への攻撃で、5年間の有志連合の努力は水の泡になる可能性がある」とし「ISは収容所や地下に潜伏しながら、再び勢力を盛り返すのを待っている」との認識を示した。そのため、今年1月以降行われていない反イスラム国連合(有志連合)の会合の緊急開催を呼び掛けている。

 逃げ出したIS元戦闘員らは、あらゆる手段を駆使して本国に帰国し、そこで新たなネットワークを構築し、再びフランス国内でテロを実行する可能性は低くはない。実際、フランスには貧富の差の拡大や移民差別でイスラム聖戦思想共感者は増えている。今月3日に起きたパリ警視庁内部で同僚4人を刺殺した職員はISに傾倒していた。