仏で燃料価格高騰、減税求めデモ過熱

政府はエコカー普及目指すも苦戦

 フランス国内で燃料価格高騰への不満が高まる中、各地に広がる黄色いベストを着用した抗議デモが長期化している。同時に化石燃料を使わない電気自動車(EV)など、エコカーへの乗り換えを奨励する政府に対し、カーユーザーの反応は鈍く、環境大国の牽引(けんいん)役になりたいフランスは困難に直面している。
(パリ・安倍雅信)

中古価格見えず乗換え躊躇

 今月17日と18日、フランス各地で燃料価格の高騰に対する抗議デモが自然発生的な形で起き、当局への届け出のないものも含め、全国約2000カ所で警察発表によると計2万8200人がデモに参加した。デモ参加者は減少したものの断続的に行われ、1週間後の24日の週末には再び全国各地で8万人が抗議デモに加わった。

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24日、パリのシャンゼリゼ通りで、治安当局の放水を浴びるデモ参加者(AFP時事)

 24日のデモでは、凱旋門近くのシャンゼリゼ通りがデモ隊に埋め尽くされ、一部の暴徒化した若者と警官が衝突し、デモ隊に催涙弾が打ち込まれ、付近は1日中、騒然とした騒ぎになった。マクロン大統領は、デモ主催者が無責任だと非難した。

 この1週間、一部の地域では警察との衝突や車両の接触事故などが発生し、23日までに620人のデモ参加者、警官136人の負傷者を出した。デモ隊は高速道路の料金所や国道、県道など一般道でも要所を占拠し車両の通行をブロックしたため、全国で渋滞が発生、大型トラックが運行できなくなり、物資輸送が滞る事態も続出した。

 デモ参加者は、「黄色いベスト運動」と称して路上作業員用の安全ベストを着用し、付近に住む理解者が、長期戦に向けて食料などを供給したり、たき火のための木材を提供したりした。しかし、24日には極左や極右の過激な活動家や若者のギャング集団が参加者に紛れ込み、暴徒化し、警察が催涙弾を使用する事態に発展した。

 マクロン仏大統領は「燃料価格の高騰はフランス政府がもたらしたものではない」とした一方、ハイブリッド車(HV)やEV車の普及率が伸び悩む問題も抱えている。特に長距離運転の多いフランスでは、ディーゼル車の人気が高く、燃費だけでなく、エンジンの耐久性や中古での売買価格が安定していることもあり、ディーゼル車愛好家が多い。

 デモ参加者は燃料減税を求めており、インターネットを通じた署名運動も展開している。これに対して、フィリップ仏首相は、減税の考えがないことを繰り返し表明している。一方、政府は、炭素課税の段階的な強化を進めており、また、大気汚染問題への対策として、ディーゼル燃料への課税の強化も進めている。

 従来、燃費の良さを理由に、ディーゼル燃料はガソリン車よりも課税圧力が低かったが、ガソリン並みの課税水準とする方向で増税され、ディーゼル燃料はガソリン並みの価格に達している。ディーゼル車ユーザーの多いフランスでは、ディーゼル燃料の上昇も不満の一因になっている。

 政府は、環境対策の野心的措置として、燃料税制の見直しはしない構えだが、マクロン大統領の支持率が就任以来最低水準に落ち込んでいることから、国民の理解を得られていないこともあり、黄色いベスト運動では「マクロン退陣」などのプラカードも見られる。

 政府はガソリン車、ディーゼル車を含め、最新の省エネ・排ガス基準を満たした車に買い替える場合、1台につき、4000ユーロ(約51万2000円)を購入奨励金として拠出する措置を発表したが、効果を疑問視する声も少なくない。

 買い替え購入奨励金には条件があり、低所得世帯が対象で、なおかつ1日60キロ以上車を使う人に限られている。フランス政府は、EV車普及のために2040年までにガソリン車、ディーゼル車の販売を禁止する方針を打ち出しているが、中古市場を気にするフランスのカーユーザーは、中古価格が見えないエコカーへの乗り換えを躊躇(ちゅうちょ)している。

 実際、新車販売においては、フランスは約95%がガソリン車・ディーゼル車で占められており、HV車は3%超、EV車に至っては1・2%前後に留(とど)まっている。エコカーへの乗り換えには時間がかかりそうだ。

 地球温暖化対策の推進を目指す国際枠組みであるパリ協定からアメリカが離脱を表明したことを受け、議長国だったフランスはパリ協定の牽引役となった。エコカー普及が足踏み状態なことは障害とも言える。

 燃料価格の高騰を機に、HV車やEV車の普及をめざすフランス政府だが、EV車が市民権を得るには、メーカーも含め、さらなる努力が求められる。