負債は7兆円強に、仏労働改革の成否懸かる国鉄スト
マクロン政権が掲げる労働改革に反対する仏国鉄(SNCF)のストライキは、政府との交渉が平行線状態にあり、労働組合は長期戦の構えを崩していない。スト参加率が多少減少したとはいえ、終息の気配はない。この他にエールフランスのストライキ、大学生の抗議デモが続き、メーデーの日を迎えた。
(パリ・安倍雅信)
4月だけで断続的12回、混乱続く
政府側は圧力継続、特権にメスも
先月28日から2日間行われたSNCFのストライキは、4月3日の開始以来、12回目となり、全国的なダイヤの乱れで混乱が続いている。パリ郊外鉄道トランシリアンは5本に1本、地域圏急行列車(TER)は5本に2本、高速列車(TGV)は2本に1本のみ運行している。
ストライキが長引く中、SNCF経営者側は休日の数え方を変え、スト参加者の収入を減らす動きに出ている。SNCFでは3日間連続でストを行うと、1日分の有給休暇を失う原則がある。そのため6月まで、労組は3日間働いて2日ストを行う断続的やり方を実施しているが、経営者側は全体を一つのストと見なし有給を減らす方針で、労組はこれに対して提訴している。
これまで労組はスト開始の日程表を提出するとともに、政府の労働改革に反対するという単一の目標を明らかにしている。司法の場に持ち込まれても、全体が単一目的のストという意味で労組側が敗訴する可能性があると専門家は指摘しており、スト離脱者も出始めている。
労組は5月3日に大規模な抗議行動を呼び掛けており、7日のフィリップ首相との直接交渉に向け、政府への圧力を加えようとしている。話し合いではSNCFの抱える膨大な赤字に対して政府の負担分が焦点となると予想されている。
SNCFの負債は540億ユーロ(約7兆1200億円)に上り、政府によれば公的資金の投入も10年前より22%増加しており、これ以上放置できないとの立場だ。国民には、巨額の負債を補填(ほてん)するため国民に税負担を求めるのではとの懸念があるが、ル・メール経済・財務相は、増税も新税の導入もしないことを表明している。
一方、野党中道右派は、公共支出を減らしても国鉄の赤字削減には到底届かないと批判している。さらに公共支出の大幅削減は現状からして不可能と野党左派は悲観的だ。また、国の財政赤字が国内総生産(GDP)の3%を超えないという欧州連合(EU)の原則の壁もある。政府はSNCFの負債への政府の負担は2020年以降の検討課題だとしている。
5月1日は労働者の日としてEU加盟国の多くは祭日にしているが、国際労働機関(ILO)によれば、世界的には労働争議は減少傾向にある。理由は労使関係の改善や、グローバル化で雇用が不安定になり、企業優位の状況にあるからとしている。
一方、フランスは欧州でも労働争議で費やされた延べ日数である労働損失日数が断トツに多く、伝統的な全国規模の労組が力を持っている。ただ今回は、ストライキ明けに完全にダイヤが正常化していない現状があり、実際には多くの通勤客が困惑している。
政府が掲げるSNCF改革の中で最大の争点は、鉄道員の特権資格改定だ。終身雇用が保障され、50歳定年も可能で有給も28日間(民間は最低25日)という現在の特権資格を廃止するとしている。同資格は蒸気機関車時代に鉄道員が重労働を理由に獲得したもので、政府は新規雇用から資格を段階的に廃止したい考えだが、労組は強く反発している。
さらにSNCF職員は、家族も含め、特別割引運賃が適用されており、その割引額は年間約1億ユーロ(約131億円)に上るとされる。民間企業との待遇のギャップの大きさに対して、今回のストライキへの不支持率が60%近くに達していると全国紙ル・フィガロが報じるなど、メディアも今回のストライキには冷たい姿勢を見せている。
この状況を受け、マクロン大統領は、20年越しの懸案となっていた改革を断行することに自信を見せている。「自分の仕事をするだけだ」と徹底抗戦の構えで、1995年に同様な改革を試みたシラク政権の時より、政府ははるかに強気の構えだ。
さらにフランスでは、エールフランスが待遇改善のストに入り、国内線を中心に空の便にも影響が出ている。また、大学でもマクロン政権が導入した入学選抜新方式に反発する学生らが、抗議行動を起こしており、場所によっては、SNCFとエールフランス労組、大学生などが合同で抗議デモを行っており、5月3日の全国レベルの抗議行動に対して、当局は警戒を強めている。