偽ニュースは民主主義の危機 仏大統領、露メディア名指し非難

 フランスのマクロン大統領は3日、アメリカやフランスの大統領選挙でフェイク(偽)ニュースが民主主義を脅かしたとして、フェイクニュース対策のためメディア法の改正を年内に行う考えを表明した。世論に強い影響を及ぼしているソーシャルネットワーク(SNS)や大規模なハッキング被害への対策強化が狙いだ。
(パリ・安倍雅信)

年内にも法改正
広告主の公表義務化 判事にアカウント閉鎖権限

 フランスで昨年5月に実施された大統領選挙で、マクロン陣営に対する偽(フェイク)ニュースが流されたことが確認されている。特にロシアの関与について大統領選後、ロシアのプーチン大統領との初の首脳会談後の記者会見で、ロシアの政府系メディアを名指しして非難した。

プーチン氏(左)とマクロン氏

昨年5月29日、パリ郊外のベルサイユ宮殿で、会談後の共同記者会見に臨むロシアのプーチン大統領(左)とフランスのマクロン大統領(AFP=時事)

 マクロン氏は大統領選の決選投票が行われた5月7日直前に、ロシアによる大規模なハッキングとフェイクニュースが流されたことが、同陣営に与えた影響は大きかったと主張し、その認識は今も変わっていない。メールの中にはマクロン大統領の租税回避の「隠し口座」の存在なども含まれていた。

 当時の状況は2016年の米大統領選で起きた怪文書流出やサイバー攻撃、ネット掲示板や右翼メディアによるネガティブ情報拡散と状況は似ていた。ただ、実際には米国の大統領選の混乱からフランスは学んでいたため、サイバー攻撃阻止はできなかったものの、フェイクニュースは効果を発揮することはできなかった。結果として、決選投票の得票率で中道のマクロン氏が、右派・国民戦線のルペン氏を上回り、その後の総選挙でも、マクロン氏自身が立ち上げた中道政党・共和国前進が結党直後にもかかわらず、既存政党を押しのけ、圧倒的多数の議席を獲得した。

 昨年、フランスのメディアは、米大統領選でのフェイクニュース氾濫を受け、検索サイト運営最大手のグーグルなどと連携し、ニュースの真偽性のチェックに取り組み、フェイクニュース排除を進めてきた。いわゆる「クロスチェック」によるファクトチェックが行われるようになった。

 フランスでのフェイクニュースの流布は政治的危機をもたらすだけでなく、テロ拡散にもつながる聖戦主義の流布の危機も招いている。憎しみの連鎖を生むような捏造(ねつぞう)されたニュースが、イスラム過激派によって運営される裏サイトで流布され、差別や貧困に苦しむアラブ系移民の若者らに聖戦主義を広める効果を生んでいるからだ。

 マクロン氏は報道関係者らを集めた新年の記者会見で「自由と民主主義を守りたいなら、強力な法制が必要だ」との認識を示した。そのため、メディアの規制監視機関である視聴覚最高評議会(CSA)の役割変更を含む同国のメディア法の改正の検討に入っていることを明らかにした。

 同氏の説明では「選挙期間中には、通常と全く同じインターネット上でのルールが、コンテンツに適用されることはなくなる」とし、特にスポンサー付きコンテンツについては、ネットの透明性強化のため、広告主を公表するとともに、スポンサー付きコンテンツの広告投資額や量を制限する必要があるとの認識を示している。

 さらに、フェイクニュースが掲載されたことが判明した場合の緊急措置として、判事がコンテンツの削除、アカウントの閉鎖、サイトへのアクセス阻止を命じられる体制を整備したいとしている。

 また、ロシアのニューステレビ局(RT)がフランス語版のネット配信を開始したことなどを受け、CSAにおける「外国政府の影響下にあるテレビ・サービスが行う情報操作への対策」に関する権限を強化することに言及した。さらに、フェイスブックなどのSNSのプラットフォームに新たな義務を設定するとしている。

 マクロン大統領はこの他、公共放送部門の改革法案を年内に閣議決定すると予告し、大統領とジャーナリストとの関係については、なれ合いの関係に陥らないよう今後とも「健全な距離感」を保つ意向を示した。

 ただ、今後の議論として、CSAの権限が強化されることで、言論の自由を制限する可能性もあり、言論統制につながる恐れを懸念する声もある。それにSNSの監視は、自由なコミュニケーションの場を奪う可能性もあり、法制化には慎重な対応が求められている。