英イスラム過激派に流れるサウジの資金
英シンクタンクが報告書
英シンクタンク、ヘンリー・ジャクソン・ソサエティーが5日、海外から英国内のイスラム過激派に流れる資金のほとんどはサウジアラビアからのものだとの報告書を公表した。一方、カタールが、サウジやアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、エジプトから断交された理由の一つは、ムスリム同胞団を含むイスラム過激派組織への資金援助。イスラム教徒の献金意欲は絶大である一方、その使途については明確さに欠けるとの内外からの指摘は多い。(カイロ・鈴木眞吉)
海外からの資金公開を要求
仏メディアによると、同ソサエティーの研究員、トム・ウィルソン氏は「湾岸諸国およびイランの各組織には、イスラム過激主義を拡大させている責任があるが、サウジの組織は疑いなくその筆頭だ」と述べた。
同ソサエティーによると、「サウジは1960年代以降、欧米のイスラム教徒コミュニティーを含むイスラム世界全域に、イスラム教ワッハーブ派を布教するために数百万㌦規模の活動を支援してきた」という。
サウジからの資金は、主にモスク(イスラム礼拝所)への寄付の形が取られ、モスクがイスラム過激主義の指導者を受け入れ、過激主義の文献を広めてきたという。
また、英国で最も過激な一部のイスラム指導者らは、「奨学金プログラムの一環としてサウジに留学していた」とされる。
同ソサエティーは、モスクやイスラム教関連団体に対し、海外からの資金の公開を義務付ける新法の制定を求めている。世界中を破壊に導いているイスラム過激派思想の根絶に向けた取り組みとして大いに評価されよう。
ワッハーブ派は、18世紀にアラビア半島内陸のナジュドに起こったイスラム教改革運動で、イスラム法学派のうち最も厳格とされるハンバル派に属する。創始者はムハンマド・イブン・アブドゥルワッハーブで、一般的にはイスラム根本主義と呼ばれ、復古主義・純化主義的改革運動の先駆。聖典コーランと預言者ムハンマドの言行に忠実な信仰生活を主張した。
同派は、1745年以来サウド家の守護者となり、20世紀初めにサウジ王国が建国されるとサウジの国教となり、宗教警察が国民に対して目を光らせている。
国際テロ組織「アルカイダ」の最高指導者、ウサマ・ビンラディンはもともと、ワッハーブ派信徒だった。
同派の思想が、聖戦のためには命も惜しまない聖戦士を生み出していたことは、9・11米同時多発テロ実行犯の半数以上がサウジ人だった事実を見れば納得がいく。
今、問題視されているのは、サウジであれカタールであれ、信徒の献金が、過激派組織に大量に流れていることだ。
イスラム教徒にとって献金は、「5行」の中の一つの義務行為で、1年に得た利益の2・5%をザカート(制度喜捨)として、さらに自発的なサダカ(自由喜捨)として、イスラム団体や慈善団体などを通じて徴収され、貧しい人々に分配される。
ラマダン期間中のサダカは神よって倍に評価されると信じられており、献金意欲が高まる。
献金を快く出すことが天国に入る条件との考えは、コーランや、ムハンマドの言行によく見られ、コーラン第73章「衣を纏(まと)う者章」20節には「定めの喜捨をなし、アッラーに立派な貸し付け(信仰の為〈ため〉の散財)をしなさい。…その善行の報奨は、最善にして最大である」とある。
動機はどうであれ、結果的に貧困者が救われ、社会の平等化が進むなら好ましいことだが、本来の目的からずれ、過激派組織に流用されるなら、本末転倒。そのチェック機能が問われている。






