欧州で相次ぐテロ、実行犯は地元移民出身
パリのシャンゼリゼ通りで今年2回目となるテロが先週発生した。今年に入り、英国やドイツでもテロが次々に起きた。実行犯はアラブ・イスラム系移民出身が多く、従来の社会適応を本格的に見直す必要に迫られている。一部実行犯の合法的な武器所持に、イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)の新たな戦略も指摘されている。
(パリ・安倍雅信)
社会適応の見直し本格検討へ
「危険人物」も合法的に銃所持
今月19日午後、パリのシャンゼリゼ通りで爆発物や武器を搭載した乗用車が、憲兵隊の装甲車の車列に突入する事件が発生した。憲兵隊に射殺された容疑者の男の身元が判明し、同時に男は国内治安総局(DGSI)の監視リスト、Sファイルにある人物でありながら、多くの武器を合法的に所持していたことも明らかになり、物議を醸している。
襲撃で死亡したアダム・ジャジリ容疑者(31)の車の中からは、13キロのガスボンベ2本、カラシニコフ銃1丁、自動小銃2丁、ライフル銃1丁、大量の弾薬、戦闘用鞄(かばん)などが発見された。
また、パリ南郊外のプレシ=パットの自宅を捜索した当局は、大量の最新鋭の武器や弾薬、無線機、人感センサー、パソコンなどを押収したことを明らかにした。容疑者がISの最高指導者、アブバクル・バグダディ容疑者に忠誠を誓う手紙1通も発見されている。
さらに容疑者は3年前からテロ実行の可能性のある危険人物として、欧州数カ国で監視対象になっていたことも判明した。最初の通報は2014年にチュニジアから国際刑事警察機構(インターポール)にあり、証拠不十分とされ取り下げられた。
15年にはギリシャ当局が、容疑者が金のブローカーとしてフランスとトルコを頻繁に行き来している事実を問題視し、DGSIに報告した。だが、フランスの入国管理所は確たる証拠を見いだせず、トルコからの帰国を許可していた。
ジャジリ容疑者は今年、銃所持の許可証を更新していた。容疑者は、過激なイスラム聖戦主義運動に参加しているとの理由で、15年から監視対象のSファイルに登録されていたが、過去に一度も起訴されておらず、銃所持の許可が今年も下りていた。
容疑者は複数の拳銃とアサルトライフル1丁を含む、登録済みの9丁の武器を所有していた。フィリップ仏首相は、ジャジリ容疑者が銃所持の免許を保持していたことに遺憾の意を表した。コロン仏内相は20日、銃所持の免許保持者の中に過激思想の影響を受けている者がいるとして当局の監視対象になっている人物に対して調査を行うよう命じた。
非常事態宣言下で、ラマダン明けまで1週間の時点で起きたテロは、今月6日にノートルダム寺院前広場でパトロール中の警官が襲われた事件から2週間足らずの間に起きた。また、4月20日には今回と同じシャンゼリゼ通りで、パトロール中の警官が襲撃されて1人が殺害される事件も起きている。
一方、英国では、6月3日にロンドン橋と近くのマーケットにワゴン車を暴走させた男が、車で通行人を轢(ひ)き、ナイフでマーケットにいた市民を刺し、8人が死亡、48人が負傷する事件が起きた。容疑者の男らはパキスタン出身のイギリス国籍の男と北アフリカ出身とされる男、さらにモロッコ系のイタリア人の男で、ISとの関係が指摘されている。
同じロンドンでは3月22日にもウエストミンスター橋の歩道で車を暴走させ、5人が死亡、40人が負傷するテロが起きている。実行犯はイギリス出身の52歳のハリド・マスード容疑者で、刑務所に収監中にイスラム教に改宗したことが確認されている。
英国では5月22日、マンチェスターでも、アメリカ人歌手の大規模なコンサート直後のマンチェスター・アリーナで自爆テロが発生し、8歳の少女を含む23人が死亡、120人以上が負傷するテロが起きている。
今起きているイスラム過激思想によるテロの実行犯の多くは、地元に暮らすアラブ移民系の若者で、社会からの疎外感から聖戦主義に感化された例が多い。
そのため、大量の移民を受け入れてきた欧州諸国では、移民の社会適応の見直しについて本格的な検討に入っている。






