深刻な労働力不足 EU、コロナ禍で人口減少


経済再建の足かせに

 欧州連合(EU)統計局(ユーロスタット)は最新のEUの人口動態を公表した。2020年は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の影響から、1961年以降、最多の死亡者数を記録し、人口減少が認められた。経済再建の最中、労働人口不足問題はEU経済に新たな試練となる可能性がある。
(パリ・安倍雅信)

夏季休暇シーズンが始まり、空港で列をつくる人々=2日、独デュッセルドルフ(EPA時事)

夏季休暇シーズンが始まり、空港で列をつくる人々=2日、独デュッセルドルフ(EPA時事)

 ユーロスタットが9日に公表した2020年のEU域内の死亡者数は、この60年間で最多を記録した。前年に比べ約11%増で、EU全体としてもわずかな人口減少に転じた。

 EU全加盟国の20年の死亡者は約520万人で、前年の約470万人から53万4千人増えた。すべての加盟国で前年より増加し、特にイタリア、スペインでは18%増、ポーランドは17%増と顕著だった。

 その結果、20年の総人口は、19年の4億4730万人から4億4700万人に減少し、01年から19年まで移民増加に支えられ4%増加していた人口は、わずかな減少に転じた。すでに12年より死亡者数が出生数を上回り少子高齢化に突入しているEUは厳しい状況を突き付けられている。

 この死亡者数の増加、人口減少局面に入った原因について、ユーロスタットのアナリスト、ランジエッリ氏は、「国境が閉鎖され、この期間中の人口移動が妨げられ、さらに人々が失業などのために域外の出身国に戻った影響は大きい」と、パンデミックが与えた影響の大きさを指摘している。

 EUで最大の人口減少は、イタリアの38万4千人。ルーマニアは14万3千人減、ポーランドは11万8千人減だった。加盟全27カ国中9カ国で人口減少が見られ、他の18カ国で多少の増加を記録した。

 米ブルームバーグ通信は5月、「コロナ禍からの経済活動再開に伴う労働力不足は、米国だけでなく欧州でも見られるが、欧州でこの問題を是正するのはより困難な可能性が高い」と指摘している。

 欧州移民政策研究所は、今年2月の欧州についてのリポートで、「コロナ禍への対応は、歴史的な景気後退を引き起こし、雇用、ひいては移民と技能政策に重大な影響を及ぼした。特に接客業、レジャー、観光などの最悪の打撃を受けたセクターの改善見通しはまったく立っていない。今回の危機は欧州の労働市場の弱点を露呈し、危機は常態化している」と分析している。

 最も人手不足が顕著なのは、EUを離脱した英国で、ワクチン接種が欧州で最も進む中、6月に大幅にコロナ対策の行動規制が解除され、レストランやパブが営業再開した。ところが英国外からの外国人労働者がEUの出身国に帰国し、戻って来る当てがないために店を開けられない事態に追い込まれている。

 そのため、人材獲得競争が激化し、賃金上昇にもつながっていることが指摘されている。EUでもパンデミックで職を失い、域外の出身国であるモロッコやアルジェリア、中東に帰国した人々が戻って来る見通しが立たず、人手不足が深刻化すると予想されている。

 ユーロスタットが7月1日に発表した5月の失業率は、EU27カ国全体で前月から0・1ポイント改善し7・3%、ユーロ圏19カ国では0・2ポイント改善の7・9%の微減で高止まりしている。

 人手不足が指摘される中、失業率が下がらないのは、労働者がEU域内を以前のように自由に往来できず、就活フェアの中止が相次いでいることも挙げられる。

 ブルームバーグは「欧州では求人に合わせて労働者を確保するのが容易でない状況」と指摘している。フランスとドイツは昨年、第1四半期の終わりに500万人の労働者が解雇されており、経済回復とともに雇用主は理論上、多くの人々を雇用できる可能性があるが、実際には企業の業績回復スピードが遅く、人材の需要と供給に歪みも生じている。

 特にデジタル化や脱炭素化の分野での専門スキルを持った人材の需要が高まる中、十分な人材育成が対応しきれていないという問題も抱えている。経済が元の状態に戻るには23年までかかるという専門家も多い。

 EUは適材適所の人材供給ができず回復の足かせになりそうだ。