中国 スリランカに5億ドル融資
中国は先月、財政難にあえぐスリランカへ5億ドル(約540億円)を追加融資した。ユーラシア経済圏構想「一帯一路」の海の要衝をめぐり、中国に対抗する安全保障メカニズム「日米豪印戦略対話(クアッド)」を牽制(けんせい)する思惑が絡む。
(池永達夫)
クアッド牽制の思惑も
インド洋シーレーン確保に布石
米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは昨年9月、スリランカの外貨建て債務格付けを2段階引き下げた。新型コロナウイルスに直撃されたスリランカ経済は、輸出や観光収入の激減に直面、海外の出稼ぎ労働者からの送金も減少を余儀なくされた。外貨準備は3月、過去10年で最低水準の40億ドルに落ち込み、昨年から毎年、本格的な債務返還を迎えていることから財務体質強化が求められている。
スリランカ政府が抱える対外債務残高は353億ドル。このうち15%が中国からのものだ。その中国は先月、スリランカに5億ドルを追加融資した。今回の融資は、昨年の5億ドル融資に続くものだ。
人口2100万人の小国スリランカに中国が惜しげもなく大枚をはたくのは、経済と安全保障の両面で欠かせぬ「インド洋の要衝」に位置するからだ。
中国が国策として推進する「一帯一路」で、安全保障の軍事基地としてまず抑えたのはアフリカ東部のジブチだった。ジブチはインド洋と紅海を結ぶマンダブ海峡に面した要衝の地だ。ここでは多大な経済援助と交換に8000人規模の人民解放軍兵士が常駐できる軍事基地を建設。先月には、中国海軍の空母や最新鋭の強襲揚陸艦収容施設を完成させた。
中国海軍は「遼寧」と国産空母「山東」の2隻の空母を保有し、年内には3隻目となる新国産空母が進水する見通しだ。
また先月23日には、中国初の強襲揚陸艦「075型」就役式を海南島で開催した。同式典には習近平国家主席自身が出席するなど、国家挙げての力の入れようが鮮明だ。
推定排水量約4万トンという強襲揚陸艦は大きな甲板を擁し、中国人民解放軍が開発中とされるSTOVL(短距離離陸・垂直着陸)機を搭載すれば空母に近い運用も可能となる。外洋海軍強化に動く中国は、東・南シナ海からインド洋まで海軍の広域展開を目指している。
これまでハンバントタ港には中国海軍の潜水艦が寄港したことがあるが、将来、中国の空母や強襲揚陸艦が同港やジブチを寄港地としながら、インド洋を遊弋(ゆうよく)する日が訪れることを覚悟しておく必要がある。
1月に施行された改正国防法には、人民解放軍の目標に「海外利益の保護」が明記された。「一帯一路」に含まれる東・南シナ海からインド洋に至る海上交通路(シーレーン)の安全保障の抑え役として、いずれ空母や強襲揚陸艦が主力として就役する。
なお米国は昨年末、スリランカへ提案していた4億8000万ドルのインフラ支援を撤回した。現政権下で急速に中国傾斜に動くスリランカへの牽制とみられるが、支援撤回はかえって中国接近へと押しやった格好だ。
スリランカでは19年11月の大統領選で当選したゴタバヤ・ラジャパクサ元国防次官が兄のマヒンダ・ラジャパクサ元大統領を首相に起用。親中派のマヒンダ氏は大統領時代の2009年、中国から武器支援を受けることで26年続いたタミールイーラム解放のトラ(LTTE)との内戦を終結させ、中国から融資を受けることで出身地のハンバントタ港やハンバントタ国際空港を建設した経緯がある。
対中傾斜を危ぶんだシリセナ前大統領が誕生したのも、そうした中国に取り込まれてしまうことへの懸念が国民的共感を呼び込んだからに他ならなかったが、マヒンダ・ラジャパクサ元大統領の復権で再び中国の存在感は大きくなりつつある。