自助、協助体制の確立めざす
迫る気候変動の脅威 どうする大災害への備え(2)
新潟大学災害復興科学研究所 教授 福岡浩氏(下)
――リアルタイムで災害情報を知らすための取り組みは?
2年前に土砂災害が発生した新潟県の寺泊山田地区に設置した雨量計を活用し実用化する計画を進めている。住民が行政より土砂災害の警戒情報を受け取る前から、裏山あるいはコミュニティー内に設置した雨量計によるスネークライン図を用いて、現在どの程度危険な状態に近づいているかの情報を「崖崩れおっかねえ指数」としてスマートフォンや携帯、PCで確認できる「裏山に雨量計プロジェクト」を9月から始めた。この指数の大小に合わせて画面の色も変え、指数が100を超えると土砂災害がいつ発生してもおかしくない状況に該当するように仕組んでいる。
リアルタイムでこの指数やスネークラインのグラフなどを見ながら、崖の様子を見に行ったり、いつ避難準備をすべきか心の準備をし始めるなど、自分たちがなすべきことを総合的に判断するわけだ。裏山から小石がぱらぱら落ちてくるようだと、直ちにそこから走って逃げるとか、木が揺れている、根っこが切れている、泥水が出ている時はどうするかなど、さまざまな現象に対する対応が素早く取れる。
「自助、協助、公助」という言葉があるが、自助の部分を強化し生命を守るということだ。まだ実験段階だが今後住民の使い勝手などの聞き取り調査をして実用的なものに育てていきたい。
――ほかにどういう情報収集の手段があるか。
実験中のシステムでは国土交通省のXバンド雨量レーダーサイト(Xレイン)や新潟県の各地のスネークライン図を見ることができる土砂災害警戒情報システムにもリンクしている。
ただすべての人にスネークラインを見て理解してもらう能力を要求するのは酷なので、コミュニティーの中に1人、2人そういったことに詳しい、いわゆる雨量計マニアとも呼ぶべきコミュニティーにおける避難のリーダー役が育ってくれば、極端豪雨による災害時に少なくとも生命を守るための自助、協助体制が進化していくのではないか。
――こういった情報収集、避難システムは外国にも例があるか。
気象や地震・火山の観測体制、GNSS(GPSなどの衛星測位)で地殻変動を捉えるセンサーの密度の高さは日本が欧米と並び最も進んでいる。避難システムもそうだ。スネークライン図を用いた土砂災害の予警報システムも日本にしかない。極端豪雨の多い東南アジアなど海外に輸出したらいい。
――今まで見られなかった自然現象が見られるようになったが。
確かに竜巻などが増え、人々に知られるようになった。その一方で、その基礎知識、例えば前兆現象としてどういうものがあるのか、出合った時どこへ、どういうタイミングで逃げたらいいのか、そのための教育体系はまだできていない。知識を体系的に整え、小中学校でカリキュラムとして教える機会がつくられるといいと思う。最近は小学生向けの防災の絵本を作る動きが政府・国交省にあるようだ。
――避難経路についても問題がある。
地震の時の避難場所および経路と大雨の時のそれとは全くといっていいほど違う。平成21年、兵庫県佐用町で発生した極端豪雨災害では、避難しようとした人9人が亡くなった。大雨の中、川を渡って橋を渡ろうとして流された方がいた。今にもあふれそうな川を渡って、指定された避難所に逃げろという場合、臨機応変に考えるべきだが、そもそも多種多様な災害のシナリオごとに避難経路、避難場所を考え直すべき時期に来ている。
――ハザードマップの改良点は?
ハザードマップが自治体によって用意され各戸に配布されているが、シナリオ別の避難経路や複合災害への対応についてはまだ手つかずだ。我々研究者に課せられたテーマでもあるが、大規模地震と極端豪雨が都市化域で重なった複合、これまで見たことの無い、きわめて複雑な災害の様相を帯びることが想像できる。大きな研究課題であるが研究が進んだとしても、どう住民に還元したらいいかという別の難しさもある。
富士山の将来の噴火時のシナリオも研究されているが、今後は各地域で地震と極端豪雨、噴火、津波・高潮などが重なったワーストシナリオとその対応を各地で考えることが、研究上も実務的にも重要になってくるだろう。
(地球環境取材班)






