世界の気象現象が極端化

迫る気候変動の脅威 どうする大災害への備え(1)

新潟大学災害復興科学研究所 教授 福岡浩氏(上)

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 ふくおか・ひろし 長崎県長崎市生まれ、京都大学理学部卒、同大学院理学研究科地球物理学専攻で博士学位取得後、同大学防災研究所に助手、助教授、准教授後現職。専門は地すべり学。

 ――今夏、自然災害関連のニュースを見ない日はないほどだが。

 気象条件に関しては「極端事象」と呼ばれる数百年確率の雨が、毎年どこかで降るようになってきている。程度の差こそあれ、日本だけでなく、世界各地で気象現象の極端化が進んでいる。おそらく全地球的な気候変動と密接に絡んでいることが気象学の世界ではシミュレーションを通して明らかになっている。

 地震、火山活動においても、特に東日本大震災以降、火山活動は明らかに活発化している。メカニズム的には今のところ説明のつく理論はないが、歴史的には世界各地でM9以上の巨大地震が発生した後には火山噴火が発生している事実を見ても関連性は明らかだ。

 地震についても、尾池和夫先生(元京大総長)の研究によると、日本史においては地震が活発になる時期が何度かあって、それが現在始まっているとされている。その端緒は平成7年の兵庫県南部地震だ。いずれ発生する首都圏直下、東海、東南海、南海地震は最悪の場合、連動する可能性があるということを常に念頭に置く必要がある。

 また社会条件もどんどん変わってきていて、古文書の時代と比べ人口や社会の規模が全然違う。街の作りも複雑になり、例えば、首都圏や大都市圏では豪雨時に地下街への浸水がたびたび発生し死傷者も発生するようになった。また新潟だと雪が10㌢積もったところで大した被害はないが、首都圏で10㌢積もれば、大災害が起こったごとく報道される。実際、影響は大きいのだと思う。

 ――気象、社会条件が変化し、災害の様相が変わってきた。それへの対応は?

 私は土砂災害の研究者だが、気象庁が各地に設置したAMeDASや都道府県等が設置した雨量計のデータを使い、土壌中の水分量を評価する土壌雨量指数という数値と最新の60分間雨量を用いて、土砂災害の起こりやすさを示すスネークラインに基づき、土砂災害警戒情報等の危険情報を適宜出している。危険情報を出す基準は各雨量計ごとの過去のデータの蓄積に基づいていて経験的な手法と言える。空振りも多いが、実際に発生した土砂災害の約7割程度をカバーしており、優秀なシステムと言える。

 昨年8月に広島市で発生した局地的豪雨による土砂災害はエポックメイキングな災害で、その後、昨年土砂災害防止法が改正され、行政は遅滞なく避難勧告、指示を出すことになった。しかし市役所など公からの情報は夜中であっても突然やってくるため、住民はうまく対応できない場合が多い。

 それに対し、自宅の立地がどのような危険の可能性がどの程度あるかを知った上で、危険がどれほど近づいているのかという情報をいつでもリアルタイムに知ることができれば、避難のタイミングを自分で判断できるようになる。土砂災害の危険性のある土地の場合、豪雨時に斜面の変状を気にして前兆現象を捉えて適切に避難することで、生命を保全できる可能性が高まる。今、レジリエンス(しなやかさ)ということが防災枠組みにおいて重要なキーワードの一つと捉えられているが、こういう避難が可能になり、災害発生後の対応や復興計画にまで意識が向けば、災害に対してレジリエントな社会を作る手だてになるのではないか。

 ――従来、なぜリアルタイムで土砂災害危険情報を提供することができなかったのか。

 土砂災害の場合、洪水と違って局地的に発生する。ひとつの洪水は何十万軒もの家屋が影響を受けるが、ひとつの土砂災害はせいぜい百軒程度。発生する場所も局地的だから、土砂災害が発生しそうな所に雨量計がないと対策的には意味がない。

 また数百㍍以上の山地があると、地形性豪雨が山の上の方で発生して崖崩れや土石流を引き起こすが、大半の雨量計は平地にある。75人が亡くなった広島の豪雨被害では、幅2㌔、長さ20㌔の線状降水帯が原因で発生した。そういう狭い範囲で起こると、その中にアメダスも雨量計もない場合は対応しずらい。

 例えば2010年7月、広島と岡山の県境の庄原市で極端豪雨が発生し、3㌔×2㌔という極めて狭い範囲でがけ崩れ・土石流が約二百カ所も発生したが、その豪雨が降った範囲に雨量計はなかった。気象レーダーでも1つの点程度の広さにしか相当せず市役所からの危険情報も間に合わなかった。災害の局所化、しかも激甚化が進行していることへの認識と対応が必要だ。

(地球環境取材班)