米の中東政策 影響力傷つけた優柔不断
2015 世界はどう動く 識者に聞く(6)
元米国防副次官補 スティーブン・ブッチ氏(中)
――中東に対する米国の影響力がオバマ政権下で大幅に低下している。
オバマ大統領は米国が中東で困難に直面しているのは、ブッシュ前大統領が中東の人々の感情を十分理解していなかったせいだと考えた。このため、オバマ氏は就任直後、イスラム世界や中東諸国に対し、過去に起きたことは誤りだった、今後は大国ではなく同等の立場で付き合う、という極めて謝罪色の強いアプローチを取った。
だが、こうした融和姿勢は、中東では弱腰と見なされ、有益ではない。全ての中東諸国が強い米国、少なくとも断固とした態度を望んでいる。だが、オバマ政権は優柔不断な態度を取り、米国が中東で何をしようとしているのか分からないという不確実性を生み出してしまった。この不確実性と弱腰姿勢が米国の影響力を大きく傷つけたのだ。
米国は強硬姿勢を取るべきだと言うつもりはない。だが、原則や政策を明確にし、それを順守することが必要だ。そうすれば、友好国も敵対国も少なくとも米国がどう行動するか予想できる。確実性を高めることが、米国の影響力を高めるのだ。
――イラン核交渉をどう見る。
オバマ政権は交渉妥結に前のめり過ぎる。米国の利益にならない内容であっても合意を結ぶことに前向きだ。米国と友好国の利益を守ることが目標であり、合意はその目標に至るための手段であるはずだ。だが、合意を結ぶことだけがオバマ政権の目標になってしまっている。
商人から何かを買いたい時、「それが手に入るならいくらでも払う」と言ったら、相手の交渉立場を強めるだけだ。イランはオバマ政権の前のめり姿勢を察知し、これを巧みに利用している。
――イランがイスラム教スンニ派の過激組織「イスラム国」への空爆を実施した。
米国とイランには対イスラム国で共通の利害があり、短期的にはイランがイスラム国の戦闘員を殺害することはプラスだが、イランが影響力を拡大させるのは好ましいことではない。
イラクでイスラム国と戦うシーア派武装勢力は、イラン革命防衛隊の特殊部隊、クッズ部隊のアドバイザーを受け入れ、彼らとともに作戦を展開している。イランの影響力伸長を許さずにイスラム国の問題に対処できるなら、それが望ましい。
――オバマ政権が2011年末にイラクから米軍を完全撤退させていなければ、イスラム国の台頭を阻止できていたか。
そう思う。イスラム国は当初、国際テロ組織アルカイダの一部で、極めて小さな勢力だった。米軍はイラク西部のスンニ派部族を味方につけ、イスラム国と戦わせたため、無力に近い存在だった。
だが、米軍がイラクから撤退すると、マリキ首相はそれまで協力していたスンニ派にひどい扱いをするようになった。また、米軍が訓練したイラク軍の将官を解任し、代わりに自分の取り巻きを据えた。これにより、イスラム国は圧力から解放され、シリアで勢力を拡大することに成功した。
米軍がイラク駐留を続けていれば、イラク軍・政府と協力し、スンニ派をイスラム国に加担させようと扇動する勢力を排除できたはずだ。また、イラクに戻ってきたイスラム国にイラク軍部隊は打ちのめされたが、米軍が訓練した将官がいて、米軍のアドバイスを受けていたら、そのような事態は起きなかった可能性が高い。
米軍が11年末に撤退していなければ、状況は今よりはるかに良かっただろう。
(聞き手=ワシントン・早川俊行)





