イスラム国の脅威 オバマ戦略では打倒困難
2015 世界はどう動く 識者に聞く(5)
米国防副次官補 スティーブン・ブッチ氏(上)

スティーブン・ブッチ 米陸軍士官学校卒。サウスカロライナ大で修士、博士号を取得。陸軍特殊部隊士官として約30年勤務し、大佐で退役。ブッシュ前政権でラムズフェルド国防長官の補佐官、国防副次官補などを歴任。現在、有力シンクタンク、ヘリテージ財団の外交・国家安全保障政策部長。
――オバマ米政権はイスラム過激組織「イスラム国」を打倒できるか。
できない。オバマ政権が自ら課した(地上部隊は派遣しないという)制約により、強力な対応ができず、イスラム国を弱体化、壊滅させるために必要なことを実行できていない。
空爆の回数が少なすぎる。これは前線に米軍の空爆誘導要員がいないためだ。アフガニスタン戦争初期に北部同盟と行った手法を再現、つまり、米特殊部隊をイラク政府軍やクルド人治安部隊に組み込み、地元部隊の地上作戦を支援する形で空爆を誘導すれば、空爆の回数や効果は飛躍的に高まる。
この手法を実行すれば、イスラム国をイラクから排除できるチャンスは十分ある。シリアでもイスラム国を無力な存在にすることも可能だ。だが、オバマ政権のやり方は不十分かつ効果的でない。
――どのくらいの兵力派遣が必要か。
特殊部隊2000人くらいで対応できるが、どの部隊を使うかによって変わるため、正確な数は問題ではない。重要なのは、特殊部隊を地元部隊に組み込むという概念だ。地元部隊を訓練するだけではなく、戦闘に同行して助言と支援を提供する必要がある。それにより、空のアセットもより有効に活用できる。
私もオバマ大統領と同様、通常の歩兵部隊を送ることには反対だ。現時点ではその必要はないし、米国民の支持も得られない。私は元特殊部隊士官で、陸軍グリーンベレーにいたが、自分たちを地上部隊と認識したことはない。特殊部隊の派遣は地上部隊の派遣ではないと主張することもできたが、大統領はそれを拒み、特殊部隊派遣の選択肢を排除した。これは誤りだ。
――イスラム国打倒に失敗した場合、中東地域にどのような影響が及ぶか。
シリア東部、イラク西部の広範な地域を支配下に収めたイスラム国は、両国を越え、支配地域と影響力をさらに拡大すると宣言している。イスラエルやヨルダン、トルコ、サウジアラビア、その他湾岸諸国など、米国の友好国が既に脅威にさらされている。
米国がイスラム国を止めなければ、彼らは地域全体に影響力を広げるだろう。また、他の国々に戦闘員を送り込み、テロ攻撃を仕掛ける可能性も高い。イスラム国は通常の軍隊であると同時に、テロ組織でもあるハイブリッド型の脅威だ。
――イスラム国が地域を越えて及ぼす脅威は。
イスラム国が危険なのは、ソーシャルメディアを使って同調者を獲得し、行動を起こさせる能力があることだ。
国際テロ組織アルカイダのように直接リクルートされ、特定の任務を与えられたわけではない人々が、イスラム国のプロパガンダを読み、ウェブサイトを見て、自分も何かをしたいと決意する。カナダなどで起きたことがそれだ。米国でもそうした事件が起きている。
また、イスラム国には欧州や米国出身の戦闘員が多くいる。彼らは欧米諸国のパスポートで自由に移動できる。日本国籍を持つ人物がイスラム国に加われば、ビザ無しで米国に入国できる。イスラム国の戦闘員が中南米から南部国境を通って入国するのを懸念する人もいるが、彼らは飛行機でやって来るのだ。
――イスラム国は豊富な資金を持つ。
イスラム国が他のテロ組織と大きく異なるのは、独自の資金源を持っていることだ。製油施設を制圧し、石油を闇市場で販売しているほか、銀行を襲撃して現金を強奪している。また、外国人を誘拐して多額の身代金を手に入れている。イスラム国はこれまでで最も経済的に強力なテロ集団と言えるだろう。
(聞き手=ワシントン・早川俊行)