ワクチン先行接種 率先希望する医師の思い

《 記 者 の 視 点 》

 新型コロナワクチンの先行接種が17日始まった。対象は全国の病院100カ所の医療従事者約4万人。18日付本紙に掲載された医師のコメントが目に留まった。

 「接種の機運を高めるため、率先して受けた」と、東京医療センターの新木一弘院長。千葉労災病院の青田孝子副院長は「私には基礎疾患があるが、ワクチンを受けて大丈夫だと示したかった」。

 今回のワクチン接種は、感染症の蔓延(まんえん)防止のため緊急に行う予防接種法上の「臨時接種」で,「努力義務」だから強制ではない。しかし、信州上田医療センターでは、職員の8割超が希望している。筆者の知り合いの医師も「実験台みたいなものですよ」と、苦笑いしながら今後接種すると語る。

 数日前、知り合いから筆者のLINEに①ワクチンに含まれる物質でアナフィラキシーショックを起こす可能性がある②短期間で開発されたため、長期的な副反応の懸念が払拭(ふっしょく)できない―などとする専門家の警告メッセージが転送されてきた。

 先行接種が行われている米ファイザー製ワクチンは治験で95%の予防効果が確認されている。しかし、治験から日が浅いため、有効性や安全性への懸念が残る。それでも率先して接種した医師のコメントからは、単に自分の身を守るというだけではなく、感染を早く収束させて一人でも多くの命を救いたいという熱い思いが伝わってくる。

 ワクチン接種で例に出すには少々大げさ過ぎるかもしれないが、医療従事者の高い志で思い浮かぶのは江戸時代の外科医、華岡青洲だ。世界で初めて全身麻酔を用いた乳がん手術を成功させたことで知られる。医療技術の発達した今でも、新薬の開発は難しいのだから、当時、麻酔薬を作る苦労はいかばかりだったろうか。

 失敗すれば命を落とすかもしれない実験を行う時に頼ったのは実母と妻だった。結局、妻は失明してしまったが、そうまでして実験を続けたのは、病に苦しむ人を救いたいという一念だったのだろう。自ら率先してワクチン接種することで、その安全性と効果を社会に示すことができれば、接種を希望する国民が増えると期待する医療従者の思いと相通ずるものを感じる。

 新型コロナの場合、6割の人が感染すると、収束に向かうと言われている。免疫を持つ人が壁となって新たな感染を防ぐからだ。これが「集団免疫」で、ワクチン接種は人工的により安全に集団免疫を獲得する手段とされている。

 英国の調査会社が昨年12月から今年1月にかけて15カ国で行った国際比較によると、各国でワクチン接種が始まる中、ワクチンに対する懐疑論が世界的に大きく後退し、「すぐに接種したいという姿勢に急速に変化している」ことが分かった。

 しかし、日本は「ぜひ接種したい」が17%で、調査対象の中で最低だった。「ややしたい」を合わせると64%だったが,6割接種はどうだろうか。

 厚生労働省は医療従事者4万人のうち2万人について、接種後4週間の体温や接種箇所の痛みの有無などを調べて公表するという。先行接種が順調に進めば、筆者は接種しようと思っている。

 社会部長 森田 清策