「一緒に走って欲しい」、思いを父の写真に託す


2月に亡くなった64年競歩代表石黒昇さん、長女が走る

「一緒に走って欲しい」、思いを父の写真に託す

写真撮影に応じる浜田美咲さん(中央)と石黒かおるさん(左から2人目)ら=6日午前、埼玉県戸田市の同市役所前(時事)

 聖火リレーは6日、46番目の埼玉県に入った。戸田市で聖火をつないだ2008年北京五輪のボート軽量級女子ダブルスカル代表、浜田美咲さん(38)=同市=は、この区間のランナーに内定していたオリンピアン、石黒昇さん=今年2月、88歳で死去=の写真をポケットに入れて走った。「父の思いを持って、一緒に走ってほしい」。石黒さんの長女の願いだった。

 石黒さんは1964年東京五輪の男子20キロ競歩に出場。現役引退後は「日本競歩を強くする会」の副会長を務めるなど、後輩の育成に力を注いだ。念願かない、19年世界陸上で二つの金メダルを獲得するなど、日本の競歩は世界トップレベルに躍り出た。

 延期された昨年の聖火リレーには、長女かおるさん(59)に車いすを押してもらい参加する予定だった。リレー開催を前に食道がんのため亡くなった父を、かおるさんは「五輪関係の新聞記事をスクラップして、自分が載った記事は何枚も印刷して知り合いに配っていた。車いすの手配も自分で済ませ、すごく楽しみにしていた」と振り返る。

 2月中旬、かおるさんは県にメールを送った。「遺影を車いすに乗せ、私が押して走れないか」。提案は認められなかったが、後任のランナーに写真を持って走ってもらうことの承諾を得た。「父は走りたいと思っていた。天国から見ていてくれるはず」。思いを写真に託した。

 かおるさんは6日、遺影を持ちながら、2人の妹と共にリレーを見守った。「父も走りながら、みんなに手を振っていたと思う」と涙を浮かべた。

 浜田さんは走行後、「インタビューから、石黒さんは諦めずに努力をすればいつか実るという思いを持っていた人と分かった。私も同じ思いで、この気持ちを伝えたいと思って走りました」と振り返った。