苦渋の決断、「何としても社員は守りたい」


苦境で酒類提供、板橋の居酒屋など経営する長岡雅也さん

苦渋の決断、「何としても社員は守りたい」

長岡さんが経営する居酒屋には「酒、アルコールあります」と書かれている=7日、東京都板橋区、川瀬裕也撮影

苦渋の決断、「何としても社員は守りたい」

インタビューに答える長岡雅也さん=7日、東京都板橋区、川瀬裕也撮影

 新型コロナウイルス感染拡大防止策として、東京都内の飲食店に対する営業時間の短縮要請が続いている。4月25日に発令された3度目の緊急事態宣言下では酒類を提供する飲食店が休業要請の対象となり、業界の苦境は一段と深まっている。苦悩の末、酒類の提供を伴う営業を再開させた、都内の飲食店経営者に話を聞いた。

 東京都板橋区で居酒屋「中仙酒場 串屋 さぶろく」など3店舗を経営する長岡雅也さん(46)は、これまで宣言への協力を続けてきたが、6月1日から、酒類を提供し営業を行っている。営業再開の理由について「(感染拡大の)原因の一つではあるけれど、お酒だけが悪いとは思っていない」と話す。

 ここ1年間で、長岡さんの経営していた2店舗が閉業に追い込まれた。感染拡大防止協力金もまだ振り込まれていないなど、厳しい状況が続いている。だが、それ以上に「仕事のやりがいや、人とのつながり、交流が奪われていることが問題だ」(長岡さん)という。

 「みんな手探りの中で対応しているから、(政府や都の)政策を批判するつもりはない」とした上で、「自分たちにできることがあるなら、やってみてもいいのではないか」と思い、コロナ禍での飲食店の在り方を模索。アルコール消毒や検温はもちろん、マスクガードの提供など、感染対策を徹底している。

 常連客や仕入れ業者などからは「開けてくれてありがとう」と予想以上の感謝の声があったという。しかし「ルールを破った形での営業だから手放しには喜べない」(長岡さん)と複雑な心境を語った。

 現在3店舗を経営している長岡さんは「何としても社員は守りたい。今後、コロナも含めて、みんなが共存共栄していける在り方を探っていきたい」と厳しい状況の中でも前向きだ。

 政府は20日の緊急事態宣言解除後は、宣言に準じる「まん延防止等重点措置」に切り替え、引き続き酒類の提供を制限するか調整している。飲食店の苦境はまだまだ続きそうだ。