対IS、三つの手術 決断と覚悟が迫られる
パリのテロ事件後、日本の左派メディアには、対IS(「イスラム国」)空爆強化批判が多かった。「対話と貧困者支援でテロ根絶」から「安倍首相は、『テロ組織加入を考えている諸君…世界をよりよくするため共に歩もう』と呼びかけよ」まで、観念論が目立った。だが、ISは問答無用で支配地の民衆も虐殺し、凌辱(りょうじょく)している。空爆は、そんな“がん”に挑む手術である。
1979年、カンボジアのポル・ポト国民虐殺政権を倒したベトナム軍侵攻は国際的に非難されたが、それで何十万もの国民が命拾いした。私は直後の現地取材で、「外国が攻めてきて救ってくれるのを願っていた」という声を、多数聞いた。
日本は貧困者支援などで大いに貢献すべきだが、それは栄養剤投与。手術とは別次元だ。
だが、これまでロシアの空爆は、他の反アサド政権勢力をより標的とし、トルコのそれは、ISと戦うクルド人武装勢力の拠点を、より熱心に爆撃するように見えた。
空爆力を結集する時だ。民衆の犠牲を最小限に抑え、特に日収100万㌦という原油密輸ルートを徹底爆撃すべきだろう。
世界一富裕なテロ組織というIS。プーチン・ロシア大統領は、40カ国から財政支援が来ているとし、特にトルコによるロシア軍機撃墜事件後、「トルコのIS原油密輸関与」を猛非難している。確かにストップ・ザ・財政支援も、別の重要手術だ。
トルコ、カタール、サウジアラビアが特に強く疑われている。米主導有志連合の空爆参加国だが、裏の行動という。中東は複雑だ。
「先週米当局は、カタールからの金がISの処刑人、ジハード・ジョンら英国人のシリア行き費用に使われた証拠をつかんだ。同国の資産家が200万㌦献金した証拠もある」(英紙デイリー・テレグラフ)とか。小首長国カタールがその気になれば、資産家の支援も止められるだろう。トルコも密輸疑惑を完全にはらす必要がある。
各国は国益や国策の違いを越えて協力し、財政支援パイプ切断を決断してほしい。
仏誌が最近、元仏情報機関トップの話として、「一昨年シリア情報機関から、同国で活動中の仏人過激派の全リストを提供する申し出があったが、仏側は断ってしまった」と暴露したが、ファビウス仏外相は先日、対IS戦力として、初めてアサド政権軍の名もあげた。欧米の基本方針を逸脱しそうだが、ISとの戦いを最優先する覚悟を固めたのだろう。
さらに手術が緊要な問題が、難民の受け入れだ。欧州の「爆撃機はとおりゃんせ」「難民はとおせんぼ」風潮増大を揶揄(やゆ)したコラムもあったが、欧州には本当に重大問題になってしまった。難民問題に関わる私は、日本も金の援助だけでなく、シリア難民受け入れ増を考えるべきだと思う。少人数でも、欧州と難民への連帯表明になる。
正直、日本社会は、観光客以外の外国人受け入れに冷たくなっている。
読売新聞世論調査では、外国人労働者受け入れへの賛成と反対の比率(%)は、91年は72対22だったが、98年は52対43、今年8月は33対64と逆転した。
でも1国平和主義はもう通用しない。
テロリスト混入が心配なら、まずISに性奴隷にされるなど、ひどい目にあうヤジディ派や異教徒の女性たちと家族の「一時避難」を受け入れてはどうか。
安倍首相は戦後70年談話で、戦時下の女性の人権を守るため世界をリードすると誓った。それを実行する最初の機会ではないか。
欧州だけでなく、日本も決断しなければならないだろう。
(元嘉悦大学教授)