カンボジアでの競い合い、日本健闘も中国の援助急増
カンボジアの旧ポル・ポト政権の「虐殺革命」を裁く特別法廷が7日、同政権の生き残り指導者2人に、無期禁錮(最高刑)を言い渡した。1970年代に、150万人以上を死に追いやった暗黒革命の一部分についてだが、元中枢指導者への一審判決までやっとたどり着いた。
8年前に設置されたこの国連協力の法廷は、被告人の高齢化、資金難、裁判不拡大を望むフン・セン政権の圧力という三重苦を抱えてきた。
「2億㌦余りかけて少しの成果」との批判もある。だが、歴史の反省として意義は大きい。「正義の実現」の裁判として国際支援の約40%を拠出し、政治的にも支えてきた日本にも、特に意義深い。
日本は、カンボジア内戦終結後の1992年以降、最大援助国となり、2012年までに総額21億㌦の援助を行った。フン・セン首相は親日派で、日本製の義眼を愛用、日本製品を賞賛し、カンボジアPKO(平和維持活動)への自衛隊初参加を大歓迎した。2001年、小泉首相の靖国参拝が論議を呼んだ時、アジア首脳の中で真っ先に参拝支持を表明した。
だが、そのフン・セン・カンボジアが近年、親中国へ急傾斜し、ASEAN(東南アジア諸国連合)内の中国の橋頭堡(きょうとうほ)と言われるまでになった。中国からの援助は2002年以後急増し、1992~2012年の総額は26億㌦と、日本を抜いた。目玉は、橋、ダム、道路などハコモノと軍事援助である。直接投資も断トツで、日本の20倍以上だ。
中国はかつてポル・ポト派を強力に支えた。10億㌦もの軍事援助を行い、監獄にも多くの顧問を派遣した。だから、今日、プノンペンの中国大使館前に「虐殺された囚人像」を建てられても文句は言えないが、そんな過去の灰色の霧をどかんどかん援助で封じ込んだ。カンボジアがウイグル難民20人を中国に引き渡せば、12億㌦の新規援助約束で応えた。
フン・セン首相は昨年4月、習近平体制正式発足後、外国首脳のトップで北京入りし、総額22億㌦以上の援助と投資を獲得し、「中国の核心的利益と関心事について、中国を支持し続ける」と約束した。同行閣僚は、「中国との関係は、世界に類のない最高レベルに達しつつある」と表現した。
だが、日本もなお健闘している。ポル・ポト派裁判、学校建設、医療、人材養成、アンコール遺跡修復、司法の整備、対人地雷(大半は中国製)の除去など、ポル・ポトと内戦の後遺症の治療に貢献している。NGOや個人も大活躍中だ。
いまフン・セン政権が評価・感謝するのは、ポル・ポト派裁判支援より、どかんどかんの方のようだが、親日がゼロになったわけでもない。親中と親日の比率は7対3ぐらいだろうか。昨年11月訪れた安倍首相に、「積極的平和主義」支持表明もした。
一方で「核心的利益」、他方で「靖国参拝」や「積極的平和主義」の支持を表明する彼の舌は大もつれにならないか気になるが、日中の競い合いは続く。今年5月にフン・セン首相が再訪中し、新スタジアム建設など1億4500万㌦の新規援助約束を取り付けたら、6月末日本は教育支援など1億4400万㌦を約束した。
日本はさらに健闘すべきだ。ポル・ポト派裁判支援その他のソフト援助が、この国のポル・ポト派後遺症からの完全脱却、人づくり、国づくりのため大きな実を結んでほしい。その結果、将来のカンボジア国民が親日でいてほしい。そう願わずにいられない。
(元嘉悦大学教授)