故人の生きざま伝える 少子高齢化時代の「葬儀」
日本葬祭コーディネーター協会代表理事 安部 由美子氏に聞く
少子高齢化が進む中、葬儀に対する考え方が大きく変わってきている。家族葬から散骨、樹木葬など、選択肢が増える一方、葬祭社任せも多い。一般社団法人日本葬祭コーディネーター協会の安部由美子代表理事に、葬儀の在り方について聞きました。
(聞き手=森田清策)
笑顔で送ってもいいよ
“自分の葬儀”考えよう
決まったやり方が続いてきた葬儀に変化が出てきました。

あべ・ゆみこ 鹿児島県内の准看護学校卒業後、病院に勤務。その後、派遣会社に所属し、葬儀司会、セレモニースタッフとして葬儀に関わる。葬祭コーディネート業務を行う会社を起業した後、現在は葬祭業だけでなくさまざまな業界の人材育成に携わっている。
葬儀に関わるようになった当初、私は同じような葬儀ばかりに疑問を感じました。それぞれの人生があるのだから、泣いて送る葬儀もあれば、笑顔で送る葬儀があってもいい。故人の好きだった踊りや歌で送ってあげてもいいはずです。
読経や神事は同じでも、私たちでほかの部分の演出はお手伝いできます。1人に一つの葬儀と思い、ナレーションも季語も変えて、同じ葬儀はつくりません。
本来なら、ご遺族が「今日はありがとうございます」と参列する方をお迎えするのですが、私たちは、ご遺族の代わりとなって行います。しかし、そのことをすっかり忘れているスタッフさんが多い。そこをしっかり意識して動けば、自然に所作や言葉遣いになって現れ、次のお客さまにつながることもあります。
病院が仲介する葬儀社があって、自動的に担当社が決まるということがありますね。
それがすごく悲しい現実です。だから、そこを変えないといけない。今、私たちがやらないといけないのは、葬儀の現場はもちろんですが、皆さんの意識改革です。葬儀の事前相談が言われるようになりましたが、事前にご自分の葬儀を意識している人はまだ少ないですよね。
葬儀は亡くなった人のためにやるのか、遺族のためですか。
両方だと思います。いろんな送り方がありますが、先ほど申し上げたように、葬儀は1人に一つ。送られる方を尊重して、その人の生きざまをお伝えすることも大切です。
ただ、ご遺族の間にヒビが入っていて、喧嘩(けんか)が始まっているケースがあります。現場を数多く踏んでいると、それは打ち合わせに行った瞬間、空気で分かります。
それぞれがそれぞれの悪口を言って、こうしてほしい、ああしてほしい、と言われますが、そんな場合は、みんなが同じ気持ちになって送ることができることを最終的な目標として設定します。そして、ナレーションは「故人さまが今送って下さる皆さまを見ながら願うことは……」と、故人から語り掛けているような内容にすると、ご遺族がお互い見合ってホロリと涙されます。
そうして参列者の心が一つになったところで、導師の入場になればいい。そういう流れをつくるのが、私どもの仕事だな、と思っています。
葬祭コーディネーターは、しっかりとした死生観や、特別な感性を持っていないとできないのでは。
私の場合は、生まれ育った環境が大きく影響していると思います。鹿児島県の大家族に生まれ、母屋が築後100年という、先祖代々の家で育ちました。
私が最初に体験した葬儀は、祖母の死です。その頃は、葬儀社がなく、葬儀は自宅で行い、近所の人たちが庭で煮炊きをしていました。
小学校5年生の私は母に言われ、畳の上にきちんと座って、いらしてくださる方に「今日はありがとうございます」と、お茶を出しました。そういうことは当たり前にやってきたのです。今、看(み)取りが言われていますが、私にとっては小さい時から、看取りも当たり前のことでした。
ところが、葬儀に葬儀社が入って来て、「葬祭会館でやった方が楽ですよ。料金は一緒ですから」と、自宅葬を変えていったのだと思います。初めは新鮮な気持ちもあったと思いますが、次第に慣れが生じて、スタッフにとっては、葬儀は給料を得るための仕事になってきた。ですから「ご遺族の代わり」という意識を持って、葬儀に関わる必要があるのだと思います。
私は、看護師として病院に勤務したことがあります。患者さまが亡くなった後、お体を拭いてきれいにしたこともありました。ここにきて、やはりそういうことに関わっていく人間なのかな、と思うようになりました。
葬儀に変化を求めるようになってきた背景には、葬儀についての考え方が変わってきたということがあるのでは。
昔は、誰でも葬儀をやってもらって当然と考えられていましたが、今は「子供たちに迷惑を掛けたくない」と考える人が多くなってきました。迷惑を掛けたくないから、墓はいらないし、散骨してもらっていいという、極端な変化も見られます。
その狭間(はざま)にあるのがお寺や墓石店。そこで新しく生まれてくる会社があります。散骨や樹木葬の会社など、葬儀関連が儲(もう)かるからと、参入する企業が増えています。
人口が減って、家族葬を広めたのは葬儀社です。やはり仕掛けられていますよね。そこに乗せられているのが皆さん。例えば、樹木葬にしたのはいいが、木々が生い茂り、お参りしたくてもできなくなって後悔する方もいる。
葬儀は時代とともに変わっていきますが、変わらないでほしいと思うことは。
人と人の触れ合いですね。葬儀業界にも変化は入ってきていますが、人が人を育て、人は人に学び、人がそれを伝えていくという部分は変わりません。所作には、心が現れる。動きには意味があり、流れがあることを、スタッフに気づいていただく。それは葬儀だけでなく、どこの企業でも同じで、そのお手伝いをするのが私の仕事だと思っています。
葬儀社選びのアドバイスを。
1度、葬儀社を訪ねて欲しい。忙しければ、電話をかけるだけでもいい。その時の対応がいいかどうか。それは葬儀の時の対応と一緒ですから。
葬儀社が開く事前説明会では、対応がいいのが当たり前。来るのが分かっていますから。不意の人をどう受け入れるかが大事。そうやって、皆さんによって、葬儀社を成長させてほしい。