健康長寿の元は社会貢献にあり
高齢社会を生きる
全日本プロバス協議会会長 中村實氏に聞く
人生100歳時代を迎え、健康長寿の維持が重要な課題になっている。それには日常的な健康管理とともに、趣味やボランティアなどで社会とのつながりを維持することが大切。そこで、専門性を生かした高齢者の社会奉仕団体プロバスクラブの活動について、全日本プロバス協議会会長の中村實(まこと)さんに伺った。
(聞き手=フリージャーナリスト・多田則明)
地域とのつながり維持
子供に社会経験の伝達も
プロバスクラブが設立された経緯は?

昭和9年横浜市生まれ。慶応大学経済学部卒業。横浜銀行企画部副部長、財団法人はまぎん産業文化振興財団初代理事事務局長など歴任し、神奈川大学、関東学院大学、千葉商科大学、東北文化学園大学などで教鞭を執り、関東都市学会会長を務めた。現在、全日本プロバス協議会会長。
プロバスクラブはロータリークラブの奉仕活動の一環として1965年にイギリスで誕生し、世界各国に急速に広まりました。ロータリークラブが、引退もしくは半引退した60歳以上の高齢会員のため、ロータリーのようなアクティブな活動義務は免除し、会費も安くして創立しました。
そのため、プロバスクラブはほとんど各地のロータリークラブが創立していますが、その後は各プロバスクラブが自主的に運営し、ロータリーは関与していません。
プロバス(PROBUS)はPROFESSIONAL(専門職)のPROとBUSINESSMAN(実業家)のBUSを合成した造語で、専門的職業人や実業家たちが、自身の豊かなキャリアを生かしながら、互いに親睦を図り、社会貢献をしようというのが趣旨の団体です。
私は保守的なイギリスでプロバスが始まったのが面白いと思います。ロータリーでの関係を定年後も続けたいというのが大きな動機でしょうが。
日本では現在、約105のクラブが設立されていて、神奈川県では六つのクラブが活動しています。全日本プロバス協議会への各クラブの加盟・非加盟は自由で、積極的な加盟勧奨もしていませんが、約半数のクラブが加盟しています。一つのクラブの会員数は20人から100人くらい。各クラブの会長の任期はおおむね1年ですが、全日本は2年で再任もあり、私は来秋まで2期務めます。各地のクラブ設立に呼ばれるのですが、交通費は自費で、先日は創立20年目の長崎県壱岐市のクラブに行きました。
どんな活動をするかは各クラブの自由ですが、会員だけで楽しくやるところもあれば、外に出て社会貢献するクラブもあります。鎌倉のクラブの合唱団は海外公演もしています。
ロータリーは会費が高くてサラリーマンには参加しづらく、しかも週1回会合があるので、会員の義務を果たすのが大変です。横濱プロバス倶楽部は会合は月1回で役員会が別に1回ありますが、任期は1~2年です。
全国的には関西に多く、兵庫県だけで24クラブあります。東京は23区内にはわずかで、多摩地区のクラブが熱心です。八王子のクラブでは「地球学校」と称して、学校では教えていないことを学び合っているそうです。NHKの「夏休み子ども科学相談」のような内容でしょう。
中村さんは銀行業務のかたわら都市学や観光学にも視野を広げ、学識と経験を積んできたのが役立っています。
仕事以外に自分が興味を覚える専門分野を見つけることですね。大学教員になるため経歴を文科省に出すと、4年制大学までは教えられると認められました。その代わり、麻雀やゴルフはほとんどやりませんでした。
高齢者の一つの問題は、社会から孤立し、孤独になりがちなことです。
私の妻は約40年のNHK勤務の経験を生かして、渋谷区の社会福祉施設でいろいろな事柄を、高齢者に解説する活動をしています。
例えば、テレビで相撲中継があると、行司になるにはどんな修業をするのか、行司の位や定年についてなどです。有名な俳優が亡くなると、その人のレコードを借り出してかけ、追悼したりしています。手当ては安いのですが、「きょうの話はとても面白かった」などと言われると、意欲が湧くようです。知見を広めるため、毎場所、自費で国技館に足を運んで相撲見物をしています。
私は入社1年目の時、日本都市学会に出るため休暇を申請すると、新入社員は7月まで休暇は取れないことになっていると言われました。欠勤になってもいいと思ったのですが、支店長の計らいで欠勤にならず、学会の参加費まで自腹で払ってくれました。そんな上司に恵まれたのも幸いでした。
定年後、終日、家にいるようになった男性が、妻のぬれ落ち葉のようになってしまうというのはよく聞く話です。
やはり在職中から何か自分から発信できる内容を持つようにしておかなければなりません。
そうするには、現役時代に、会社の仕事をしながら、社外の人たちとも積極的に交わり、経験を積むことですね。そうでないと、定年後、何もすることがないということになりかねません。
地位の高かった人でも、地域ではただの個人として扱われるので、家に閉じこもりがちになってしまう例があります。
団体でバス旅行などすると、現役時代は威張っていたのではないかと思う人もいれば、自然に人の世話をする人もいます。出世はしなくても、生き方としては後者の方が幸せですね。
家族が旅行するので、ショートステイで1週間、施設に預けられた男性が、人が変わったようになってしまうこともあります。お互い楽でいいと思っていたのですが、話の合う人がいないのはつらいことです。プロバスクラブではそんな切実な話も出ますので、自分の老後の過ごし方の参考にもなります。
学校ボランティアで、小学生に米や野菜の栽培から収穫までの体験を支援している農家の人もいます。
八王子のプロバスは小・中学生に社会経験を伝える活動をしています。家に祖父母のいない子供が多いですから、子供たちにとっても高齢者と交流するいい機会で、高齢者にとっては次世代の子供たちを育てる意義深い活動になっています。
最近、新潟と福島にクラブが誕生しましたが、地方都市ではそのような活動がいいでしょうね。