拉致被害者家族会20年、報告書より即全員帰国を
飯塚繁雄代表に聞く
日本人拉致問題の解決に向け活動してきた「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」(家族会)が25日で結成20年を迎える。この間、被害者5人とその家族が帰国したものの、その他の被害者は居所さえ把握できていない。飯塚繁雄・家族会代表にこれまでの歩み、今後の方針を聞いた。(聞き手=編集委員・上田勇実)
20年を振り返り今どんな思いか。

いいづか・しげお 1938年東京都生まれ。日産ディーゼル工業(株)に就職し定年まで勤務。1978年、北朝鮮に拉致された田口八重子さん=失踪当時(22)=の兄。八重子さんの長男・耕一郎氏を自分の子として育て、21歳の時すべてを打ち明ける。著書に『妹よ』。2007年から家族会代表。
家族を助けたい一心でいろんな活動をやってきたが、結果的にほとんど事態は動かなかった。20年の節目と言われるが、私たち家族にとっては待てど暮らせど帰ってこない、一日一日が節目だ。
反省点があまりにも多い。例えば、1988年の参議院予算委員会で梶山静六・国家公安委員長が北朝鮮に日本人が拉致されたようだと認め、政府として取り返す努力をすると述べた。私は国会でそういう話が出たのであれば政府も動かざるを得ないと期待したが、その後、パタッとその話が消えてしまった。また西村眞悟議員も同様の発言をしたが、それもどこかへ消えてしまった。
私が思うに、もともと北朝鮮を刺激するなという雰囲気が90年の金丸信氏訪朝の頃からずっとあった。マスコミも何も報じなかった。あの時が救出に向けて動きだす一つのチャンスだったのに。
もう一つ例を挙げれば、2002年、04年の小泉純一郎首相の訪朝と日朝首脳会談。北朝鮮が外貨不足を解消するため日本との国交正常化を狙いオファーを出してきた。それとブッシュ米政権が北朝鮮を「悪の枢軸」と非難したので米国向けジェスチャーの意味もあったと思う。
あの時、金正日総書記は拉致の事実を認めて謝罪し、5人の被害者を返した。それはそれで大変良かったことだが、まだたくさんの被害者が残されているのに日本政府は食糧25万㌧の支援などを約束し、日朝国交正常化交渉を始めようとした。普通だったら残りの被害者全員を至急返せと言うべきところだ。あの時から継続的な協議をしていれば13年たった現在、何かしらの結果につながっていたのではないだろうか。
日本国民が拉致されたのになぜ日本の政府や国会議員は動いてくれないのか。これまで政権が何度も代わり、総理大臣がいくたびも交代したが、皆やっていますという話ばかりで実質的な動きが見られない。
民主党(現、民進党)の菅直人首相に至っては「大げさに騒ぐのは良くない。北朝鮮と仲良くする方法を考えながら、その状況に沿って被害者が帰ってくるようにしたらどうか」といったニュアンスで話をしたほどだ。
被害者再調査などを約束した14年のストックホルム合意は成果を挙げられなかった。何が問題だったのか。
北朝鮮が狙っていたのは最初から日本の支援だったのだと思う。被害者は拉致された瞬間から全て管理されていて名簿も当然あるはずだから今さら調査する必要なんてなかった。特別調査委員会を立ち上げても看板だけで、よく調べてもらったら何も活動していなかった。
調査結果を報告するという話にしても、その調査結果というのは13年前と全く変わっていない内容だ。日本に帰ってきた5人とその家族以外には死亡・行方不明というもの。報告書に名前が出ていなければ帰ってこられないという話になってしまう。
だから報告書は要らないから被害者全員を即刻返してほしいというのが私たちの願いだ。
合意文には日本人遺骨や日本人妻、行方不明者などの問題の後に拉致被害者が記述されていたが、拉致被害者の帰国が最優先であるはず。それが動かなければストックホルム合意は意味がない。
安倍首相訪朝は帰国メドが前提
家族会が新しい活動方針を打ち出した。それは北朝鮮への圧力を強めるだけではなく、北朝鮮に見返りも与えるというものか。
見返りと言う言葉が適切かは分からない。問題の発端は国家犯罪であって、日本人を勝手にさらった北朝鮮の人権蹂躙(じゅうりん)によってわれわれ家族も苦しい思いを強いられたのだから無条件に返せというのが理にかなう。
私たちは20年戦ってきたが、もう時間がないという思いが強い。当然、制裁は科しながらもそれだけで被害者の帰国に結び付くのかという疑問もある。何事も被害者帰国に焦点を合わせ、日朝の実質協議ができなければ話が進まないということを含め、どうやったら北朝鮮を引っ張り出せるのかというステップを踏むため、拉致被害者を返せば北朝鮮当局にも制裁解除などメリットがあることを示す必要がある。逆に返さなければ大変な思いをすると分からせなければならない。
北朝鮮の最高指導者が金正日総書記から金正恩委員長に替わった。拉致問題解決に向け何か変化があるか。
世襲の系統から出てくるあのような人物に一国を切り盛りする力量があるのか疑問だ。恐怖政治ばかりが目立つ。金委員長のような人とまともに交渉をするというのは難しいのかもしれない。
拉致問題解決に意欲的といわれる安倍晋三首相に期待するところが大きいのでは。
安倍首相は官房副長官の時代から拉致問題を何とか解決しなければと周囲に言っていた。その意欲、姿勢は今もぶれていない。ただ、その半面、安倍首相でさえ結果がなかなか出せないという悲観的世論や小泉首相のように北朝鮮を訪問すべきだといった主張もある。
仮に安倍首相が訪朝した場合、解決の糸口を見いだせると思うか。
被害者を返すから確認しに来てほしいという話ならいいが、全く白紙の状態で行っても駄目だろう。こちらがお願いしに行く、犯罪国に被害国が願いをするというのは論理上あり得ない。“身代金”を持って行くので返してくれというのもおかしな話だ。返せという断固たる姿勢で臨まなければいつまでたっても北朝鮮にだまされっ放しになる。
安倍首相には先日もお会いして直接話をしたが、もうわれわれはこれ以上待てないと伝えた。特に今年は期限を区切って年内解決をスローガンに掲げ、それに合わせた活動をお願いした。安倍首相もあらゆる手段を講じて取り組むと約束してくれた。
われわれは被害者全員の帰国を大目標にしている。北朝鮮が被害者を拉致監禁している状態の中で国交正常化なんてできるはずがない。今後の話し合いの中でどういう形で帰国が進んでいくのか注目した。