宗教文化を町興しエネルギーに

観光ネットワーク

福井県あわら市市長 橋本達也氏に聞く

 北陸有数の温泉地であるあわら温泉(福井県)は、関西や中部では知られていても関東での知名度アップはこれから。人口3万人を割ったあわら市は3年前の北陸新幹線金沢開業前から、地方創成に奮闘。都内で“「美(うま)し国越前」あわらフェア”を開く一方で、勝山市、坂井市、永平寺町、加賀市の周辺4市町で広域観光ネットづくりを進める。橋本達也市長に聞いた。(聞き手=堀本和博、宗村興一)

越前・加賀街道を祈りの道に
団塊の世代取り込みへ拠点づくり

あわら市(福井県)の人口はたしか3万2000人でしたか。

橋本達也

 はしもと・たつや 首都圏へのあわら温泉プロモーションで開いてきたフェアも、近隣市などとのコラボを含め今回(今月2日、ホテルニューオータニ)で4回目を数える。北陸新幹線の金沢開業に合わせた誘客努力も少しずつ成果が出てきて、外国人客も増えてきた。次は6年後の新幹線の敦賀伸延を見据えて、駅(あわら温泉駅)周辺の街づくりに取り組む。あわら市の魅力は温泉そのもの(足湯は北陸で一番)、山と川と海と湖と風車のある自然と人の環境、酒と新鮮な魚介類、肉、果物、野菜など食べ物と。現在、市長3期目。62歳。

 いえ、合併して13年たつが3万人を割り、もう2万9000人。地方創生で頑張らないといけない。

関西では温泉として知られているが、首都圏ではどのようにプロモーション展開を。

 今まで関東方面からのお客さまは1割にも満たなかった。北陸新幹線金沢開通を見越し、関東方面にも数年前から力を入れ始めた。関東方面でどう訴えるか。私は、観光行政はおのずと広域行政になっていくと思った。あわら温泉は小さな温泉街だが、昔は大阪や名古屋から観光バスでどんと来て、旅館で宴会を楽しんでもらえた。今はそうはいかない。 例えば、隣の坂井市は東尋坊があるし、その近くに永平寺もある。勝山市は平泉寺という古いお寺もあり、恐竜博物館は非常に人気がある。こうした観光拠点をつなぎ合わせてネットワークを作り、そこでお客さまが楽しんでいただく仕組み作りが重要になってくる。福井県内では温泉街を形成しているのはあわら温泉だけだから、全体のお客さまが増えれば、あわらに泊まりに来る人も増える。各市町の観光魅力をつないで広域ネットワーク作りに力を入れている。

広域ネットワークというと最近、観光大国を言い出している政府の方針にもかなう。先見の明があった。

 意識はしていなかったが、そういう時代になってきた。たぶん白山信仰を中心に、数年前から時代、宗派は違っても宗教文化が集積している地域としてわれわれは共通認識を持っているのではないかと思う。勝山市は白山平泉寺、坂井市は瀧谷(たきだん)寺、永平寺町は大本山永平寺、あわらは浄土真宗の蓮如上人がお寺を開いた吉崎御坊跡。たった4年間で浄土真宗東本願寺を再興して日本に広げた拠点がある。石川県の加賀市には加賀大聖寺山の下寺院群がある。越前から宗教文化街道を作ろうと、5年前にネットワークを作った。

キャンペーンしている越前加賀宗教文化街道<祈りの道>ですね。

 いま人口層の一番多い団塊の世代が65歳で老人になる。年を取ってきて死生観を考えるだろうし、お金も持っていて知的水準も高い。そこをターゲットに4市1町が協力して推進拠点を作ってきた。これを昨年の5月に、同じメンバーで衣替えをして、越前加賀インバウンド機構に作り直した。宗教文化は一つの大きな要素として持ちつつ、5年後に新幹線が福井に来たあとを考えると、日本の人口も減っていても、インバウンドの伸びしろは相当あると思う。インバウンド機構は私が会長で、国の方針とあっていたので地方創生交付金もほぼ満額のご支援で、今年度から動き出した。

なかなかの慧眼(けいがん)だが、ただ近隣の観光地同士はライバルになっても結びつくことは珍しいのでは。

 そこは難しいかもしれないが、福井県では宿泊施設を抱えた温泉街はあわらだけ。永平寺もお客さまは昔と比べ半分です。勝山は恐竜博物館で子供はたくさん来るが、泊まるところがない。

 やっぱり動く必要があるし、動いた先にはあわら温泉がある。そのへんは私の方から声をかけたが、みなさん乗ってきてくれた。

 県境を越えた隣の加賀市(石川県)は加賀温泉を持ち、あわらの比じゃない。あわらは3年前に開湯130周年を迎えたが、温泉としては新しい。加賀は1300年の歴史があり、レベルが違う。歴史文化や富の集積もあわらの比じゃないと思う。あわらだけでは弱いので、みんなでパイを大きくしようと。そのコアの部分は宗教文化で、お互い協力し合うことができた。

宗教文化をアピールするときに堅いイメージとなるが、それをホワイトヒーリング(祈りの道)とネーミングした。

 若い人にも理解してもらえるネーミングだと思う。白山の白と、ヒーリングの組み合わせは、一般に訴えるには良いと思う。

北陸新幹線が金沢まで開業したが、現段階での何か変化は。

 期待と不安の両方があった。期待はお客さんが金沢まで来て、そのまま福井まで足を延ばしてほしいと。不安は金沢で止まってしまうのではないかと。そのため魅力ある街づくりをしていった。財政的には市単独でできるものではなく、県の協力が大きい。

 短期間で温泉街の街づくりに手を着けて今年度で完成する。そうしないと、当時は金沢開業から福井延伸まで10年間と言われていて、10年持たないぞと思った。道路づくりを急ぎ、足湯とか屋台村とか、魅力あるにぎわい施設を作った。

その成果は。

 金沢開業後のあわら温泉の入りこみ客が、20年ぶりに年間200万人を超えた。温泉の宿泊客の数が前年比で新幹線ができた年は14%ほど上がった。翌28年度は心配だったが、対前年度比4・6%減で済んだ。新幹線がくる前年と比べたら10%以上である。このまま頑張っていき、周辺の観光地の魅力と相乗効果を呼ぶように、総合的にやっていく必要がある。

金沢開業は吉と出たわけだ。

 そう思う。福井でもあわらは北のほうで、そこだけ吉と出た。南の福井市とかは、まだ大きく効果は出ていない。加賀、あわら温泉は効果が出ている。

新しいインバウンド機構の会長としては何をやっていくのか。

 国の交付金でやる28年度初めての事業だが、首長全員で(2月)14日に香港で誘客キャンペーンをやる。台湾、香港はもともと客数が多く親日的で、たまたま総領事が福井出身で、前から応援すると言われていた。

 香港で、日本に一番多く送客している旅行会社のエン社長に、インバウンド機構の観光大使になっていただく了解を得ている。この人はすごい人で、東北大震災のとき、日本に1人で来てレンタカー借りてずっと被災地を回り、お金も1億円くらい支援されている。 

映画監督の田中光敏さん(「海難1890」など)があわら市の観光大使になったと聞いたが。

 あわら市の観光大使は初めてで、第1号。もう一人シンガーソングライターのせりかなさんと2人に委嘱する。彼女は田中監督の撮ったあわらの観光プロモーションビデオに出て、歌を歌ってくれた。田中監督は一番最初の「サクラサク」という映画の時に、あわらをロケに入れてもらったのがきっかけで、「今あわら温泉にいるよ」なんてセリフも入れてもらった。

 プロモーションビデオではシナリオを全国公募したり、出演者も公開オーディションしたりで全国に発信した。撮影も実行委員会のみんなと、炊き出しや機械を運んだり照明の手伝いをしたり。田中監督も「撮影をする過程が町おこしだね」と驚くほど、映画作りを町全体でやり盛り上がり、みんなに元気と連帯感を与えた。

話が戻るが、3万人を割った人口減少をどう解決していくのか。

 地方はどこも、この悩みを抱えていると思う。一番いいのは人口が増えることだが、増えなくても減り方が少なくなる努力をしたい。いまやっていることがつながればと思う。北陸新幹線が来たら産業にいい影響があると思うが、一番わかりやすいのは観光だ。人口が減っていく中で交流人口、つまり観光客を増やしていく。お金を落としてもらって活性化させたい。

 観光とは別だが、たとえ人口が減っても、あそこで自分たちが生活し続けていく方法を考えたい。明るく楽しい町にしたい。