コロナ禍の人とペットの共生

ペット通し「心」見直す

ジャパンペット総合スクール理事長 勝俣 和悦氏に聞く

 コロナ禍での外出自粛の影響で、犬や猫などのペットを飼う世帯が増えている。一方で、世話が大変などの理由で飼育放棄されるペットの数も同時に増えているという。コロナ禍でのペットとの関わり方や、今後のペット業界の在り方などについて、ペット総合コンサルタントの勝俣和悦氏に聞いた。
(聞き手=川瀬裕也)

人間性復活の役割も
「終生飼養」守ってほしい

ペット業界に携わることになったきっかけは。

 かつまた・かずよし 昭和23年東京生まれ。北海道帯広畜産大学卒。丸大食品(株)入社後、開発部時代に丸大ペットフード(株)を設立し、取締役営業部長に就任。独立後はペット総合コンサルタント、ペット総合プロデューサーとして全国のペットショップや企業を回る。ジャパンペット総合スクール理事長などを務める。

 食品会社で働いていた時、ペット用の「発酵フード」を開発したことがきっかけ。そのフードを広めるため北海道から沖縄まで全国を売り歩き、「フーテンの寅さん」ならぬ「フーテンの勝っちゃん」と呼ばれるようになった。

コロナ禍でペット人気が高まっている。

 コロナ前と比べると、ペットを飼う人がかなり増えた。ペット業界全体にとってはうれしいことだ。しかし、実際に飼ってみて、育てるのが大変だったり、予想以上にお金がかかるという理由で放棄する人が増えたことも事実だ。目と目が合い、一目ぼれのような感覚で深く考えずに衝動買いすることは絶対にやめてほしい。

 ただ近年、ペット愛護団体が増えたことにより、放棄されたペットが保健所で殺処分されることが少なくなってきた。愛護団体が保護しながら里親を探す態勢ができているので、ペットたちは最終的には救われているのかもしれない。しかし、やはり飼うからには最期まで飼う「終生飼養」を守ってほしい。万が一、途中でどうしても飼うことが難しくなった場合は、放棄したり捨てたりせず、専門の窓口に相談してほしい。

飼育放棄を減らすために必要なことは。

 まず、安易にペットの購入を勧めるような業者に対して、お客さんが購入する前に、飼育の大変さや責任感の重要性をしっかりと説明するよう指導することが大切。また、飼い主への教育も今まで以上に必要になってくる。

 高齢者がペットより先に亡くなってしまうという問題があるが、残された高齢犬の面倒を見てくれるサービスも増えてきた。逆に、ペットに先立たれた高齢者に、保護された高齢犬を譲渡するというサービスもある。高齢者にはある程度しつけのできている高齢犬の方が飼いやすい。元気いっぱいの子犬を一からしつけをして育てていくのは大変な労力が必要だからだ。ある意味、高齢同士最後のパートナーとして豊かに暮らしていけるのではないか。

飼い主教育とは具体的にどのような内容か。

 一番大切なのはしつけのやり方だ。特に離乳する生後3カ月ごろの「社会化期」に、トイレ、寝る場所、食事などの徹底したしつけが必要だ。これを「パピーレッスン」と呼ぶ。そこから2~3カ月経(た)つと、次は散歩の練習や、「お手」「待て」などの基本的な最低限のしつけをする。生まれてから半年が勝負だ。その後1~2年経ってからでは遅い。難しければインストラクターのしつけ教室に通う方法もある。

コロナ禍でのペットの役割は。

 ペットは家族の一員だという認識を持つ人が増えてきている。本当の家族のように大切に世話をしてあげ、ペットからは癒しや幸せをもらう。この双方向のやり取りが大切だ。

 ペットは今後、本来の人間性を復活させる役割を担っていくと考えている。複雑化する社会構造の中で、精神的に苦しんで、ノイローゼや鬱などに悩まされている人々に対して、アニマルセラピーとして役に立ったり、オフィスに動物がいることで、ストレスが軽減されたり、職場でのコミュニケーションのコーディネーターの役割を担ってくれることが期待されている。

 本来の人間としての「心」を、ペットたちを通して見直すことができれば、世の中が今よりもっと良くなるかもしれない。その意味では、コロナ禍は、人とペット(生き物)が共生する時代の幕開けの意義を持つ。

 もう一つ、盲導犬や聴導犬、介助犬、災害救助犬や警察犬など、社会のために働く「社会貢献犬(ワーキングドッグ)」を今まで以上に大切にし、増やしていかなければならない。もちろんこれまでも彼らは多くの場所で活躍してきたが、まだまだ認知度が低いのが現状だ。最近はガン探知犬や大地震の予知犬などの研究も進んでいる。しかしそれらの犬を育てていくための人材が育っていない。飼い主教育と同時に、ドッグトレーナーなどの人材教育も今後一層進めていく必要がある。

今後、ペット業界でやりたいことは。

 人間もペットも楽しめるペット博物館を造りたいという夢がある。ブリーディングから始まり、スポーツやトリミング、教育、医療、メモリアルまで、世界中のペット情報が集まり、サービスを受けられる。まさにゆりかごから墓場まで、ペットに関するあらゆることが詰まった施設を造りたい。その第一歩として今年6月、「アニマルワールドカップ」を開催し、ペットスポーツ体験やファッションショー、各種セミナーなどを実施し、オンラインで発信した。今後さらにパワーアップしていきたい。

 もう一つは、地方創生の観点から、ペットと共生できる街づくりを進めていきたい。北海道から沖縄まで、余っている土地が沢山ある。廃校になった校舎を再利用したり、シャッター通りになっている商店街などを利用して、人とペットが共生するモデル村を造る。全国からペット連れが訪れれば地方に活気が戻ってくる。

 ペット業界は夢を売るビジネスだ。1匹のワンちゃんが、1人の老人の生きがいに大きく貢献したり、人と人との輪をつなげてくれたり、大切な友人や家族の一員として絆(きずな)を強固なものにしてくれ、大きな夢を与えてくれる。多くの人に夢を与えられるよう、より一層業界を盛り上げていきたい。