薬物依存リハビリ施設 残留物排出し新たな人生を

ナルコノンジャパン総代表 神野 正啓氏

 覚醒剤の押収量が昨年、過去最高になるなど、違法薬物問題が深刻化している。また、芸能人による乱用・再犯事件が続き、薬物依存からの回復方法に注目が集まっている。そんな中、米国で生まれた薬物リハビリテーション施設「ナルコノン」が今年秋、日本で開設する予定だ。ナルコノンジャパン総代表、神野正啓さんに、施設のリハビリプログラムについて聞いた。
(聞き手・森田清策)

4段階プログラム 4万人「卒業」
世界で40カ所目 日本開設へ

ナルコノンとは。

神野正啓氏

 かみの・まさひろ 1979年生まれ。長崎大学薬学部卒業、薬剤師の資格を持つ。大手製薬会社に勤務した経験から、医薬品による薬物依存解決に関心を持つようになり、依存者のリハビリに情熱を燃やす。

 ナルコノンは「no narcotics」つまり「麻薬なし」の略で、薬物依存からのリハビリプログラムの一つです。薬物依存から離脱した米国の受刑者と教育者のL・ロンハバード氏(故人)が1966年に共同開発したもので、現在、世界で39カ所に施設があり、これまでに4万人以上が“卒業”しています。

 覚醒剤、大麻、コカイン、アルコール、ケミカルドラッグ(MDMAやLSDなど)、有機溶媒であるシンナー、有名な歌手の事件でも話題になった危険ドラッグなども対象です。

 米国と英国では、保険適用になっていますし、ネパールは国家主導で運営されています。

神野さんはなぜナルコノンに関わるようになったのか。

 私はもともと薬剤師です。大学の薬学部を卒業し、製薬会社に勤めていた時、医薬品で依存症になる人をたくさん見てきました。

 ですから、薬物依存からのリハビリに関心を持つようになったきっかけは、違法薬物ではなく、医薬品による薬物依存です。こうした問題の解決策はないかと考えるようになった時、ナルコノンを知りました。

薬物犯罪は再犯率が高い。なぜ乱用を止(や)めるのが難しいのか。

 覚醒剤を例に挙げると、まず、圧倒的に気持ちがいいからです。脳から出る、喜びや快楽などを感じさせる神経伝達物質の一つであるドーパミンが、通常の状態を100とすると、おいしい食べ物を食べると、200ぐらいになると言われており、通常の2倍ぐらいの幸福感を得られます。覚醒剤ではそのドーパミンのレベルが1000以上になると言われており、その感覚が忘れられなくなって、依存につながるのです。

 もう一つの原因に禁断症状があります。覚醒剤はその効果が切れると激しい疲労感や憂鬱(ゆううつ)感が出てきます。それを克服したいがためにまた打つ。精神的な依存と禁断症状の二つによって、止められなくなるのです。

ナルコノンプログラムとは。

 「ウィズドロー」「ニューライフデトックスフィケーション」「オブジェクティブ」「ライフスキル」の4段階あります。

 ウィズドローは薬物断ちの期間。薬物なしで寝て、また三食きちんと食べることができるようになる。さらに、次の段階でサウナに入るプログラムがあるので、それを受ける条件としてじっと座り続けられる状態になるまでがゴール。短い人で5日間、長い人で2週間ぐらいかかります。その間、逃げ出したり、自殺を図ったりしないように、24時間、人が付きます。

2段階目のニューライフデトックスフィケーションとは。

 こちらは薬抜きです。脂肪組織に溜(た)まった残留薬物を、栄養、運動、サウナの三つで体外に出します。

 薬物は脂溶性のものが多いです。薬物を取ると血中濃度が上がりますが、血液の中にあるものは尿と一緒に出て行きます。しかし、薬物は血液から組織に行ったときに、体中の脂肪組織の中に溶け込みます。それが乱用すればするほど、溜まり続けます。

 それを体の外に出すために、しっかりとした食事と、ビタミンとミネラルを摂(と)ります。特にナイアシンというビタミンB群の一種が脂肪組織に溜まった薬物の排出を促し、それらをサウナで汗と一緒に出すというメカニズムで行っています。

 次がオブジェクティブというプロセス。薬物中毒者は、意識が過去に囚(とら)われています。その意識を現在に持ってくるために、身近な環境を観察したり、散歩したりしてもらいます。それも自分でやるだけでなくて、人にもやってあげて、お互い助け合いながら、意識を現実に持ってきながら、人の注意を外向させ、主観的ではなく客観的な視点を持てるようにします。

 最後はライフスキル。薬物依存者は、何の理由もなく、薬物に手を出したわけはなく、何か理由があって、薬物に手を出します。ここでは、その理由を取り扱います。自分の人生を見詰め直し、人生の指針を持つことを勉強し、二度と薬物に手を出さないような意志を持つことができて卒業です。個人差もありますが、卒業までは平均3カ月間が目処(めど)になります。

成功する割合は8割ということだが、その効果を生む秘訣(ひけつ)は。

 ナルコノンは「治療」するものではなくて、「教育」する場と考えていることが他のリハビリプログラムと一番違うところでしょう。ですから、ナルコノンにやって来る人たちを、私たちは「患者」と呼ばずに「生徒」と呼び、終了した人を「卒業生」として扱っています。

そうなると、「先生」の役割が非常に重要になる。

 そうです。プログラムの卒業生がスタッフになるケースが非常に多い。ナルコノンの本当の素晴らしさを一番知っているのは卒業生だと思います。彼らは薬物依存の苦しみを知っているので、すばらしい先生になれるのです。

日本における開設は。

 アジアではすでに台湾、オーストラリア、ネパールで開設しています。日本でも今年秋、東京近郊に開設する準備を進めています。当初は、10人ほどを受け入れる規模からスタートし、徐々に増やしていきたい。できれば、ナルコノンがいらない世の中が一番いい。