ここが変だよ 日本国憲法

改憲へ国民の理解進める

元自民党政務調査会調査役 田村 重信氏に聞く

 憲法を改正するには国会での発議の後、国民投票を経なくてはいけないため、国民が憲法の内容と問題点を正しく理解する必要がある。憲法の成り立ちや改正のポイントを分かりやすく解説した「ここが変だよ日本国憲法!」を執筆した元自民党政務調査会調査役の田村重信氏に、憲法の欠陥と問題点について聞いた。
(聞き手=政治部・岸元玲七)

「自衛隊明記」が最大の課題
「非常事態に弱い」問題点

憲法に関する著書で今回が6冊目になるが、出版した理由は。

田村重信氏

 たむら・しげのぶ 1953年、新潟県栃尾市(現長岡市)生まれ。拓殖大学政経学部卒業後、宏池会勤務を経て、自民党本部勤務。政調会長室長、総裁担当などを歴任。政務調査会の調査役・審議役などとして外交・国防・憲法・インテリジェンスなどを担当。現在、自民党政務調査会嘱託。

 いよいよ本気で今年は憲法改正する年だと思い、本を出すことになった。本が出来てすぐに首相官邸へ行き、安倍首相に直接本を手渡した。改憲に向けた首相の気持ちを理解した上での本になっている。

 私がよく講演で「憲法の全文を読んだことがある人はいますか」と質問するがほとんど手が挙がらない。だが憲法論議はたくさんあり、テレビや新聞で見聞きした内容で議論している人が多い。憲法を議論するためには前文にどういうことが書いてあるのか、どこが問題なのかを知った上で議論したらよいということでこの本を書いた。巻末に憲法の全文を載せているので、どこが問題か読んでみてほしい。

日本国憲法は改正が容易にできない「硬性憲法」と言われている。

 第9章96条に「改正」の規定がある。各議院の総議員の3分の2以上が賛成して発議し、国民投票で過半数を取らないといけない。これは極めて厳しい。他の国だって厳しいというが、国民投票がない国も多い。そのため、憲法改正がなかなか出来なかった。

 だが、憲法はツールだ。体が大きくなったら小さい服は着替えないといけない。憲法に改正の規定があるのは、世の中の変化に応じて憲法も変えていくべきということだ。

 改憲を党是としてきた自民党がなぜ未(いま)だに実現できないのかという議論があるが、改正規定の厳しさがある。安倍首相になってから衆参で3分の2以上の議席を取れたから、総裁の責任として憲法改正の発言をするのは当然だ。その中でもこだわりは9条だ。首相が一番重視しているのは、自衛隊を憲法に明記することだ。

憲法9条の問題点は。

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 どこの国の憲法にも軍隊の規定があるが、日本の場合はない。9条1項の戦争放棄の規定に関しては他国にもあるが、問題は2項にあり、ここでは軍隊・自衛隊を持てない規定になっている。

 憲法が作られた当時は、米軍が日本を守ってくれたために軍隊を持てない状態で出発した。1950年の朝鮮戦争で米軍が朝鮮半島に行くことになったので日本に警察予備隊が設立された。自国を守るための必要最小限度の実力組織、それが自衛隊だ。9条によると戦力は持てない。戦力はイコール軍隊であり、軍隊になると憲法違反になる。だから必要最小限度だということで「自衛隊」の規定になった。

 自衛隊は他国から軍隊として扱われるが、日本国内では軍隊ではないと言われているため、国外で武力行使をすると憲法違反になってしまう。ここを整理することが憲法改正の最大の課題だ。

新型肺炎の対応が他国と比べて遅いと指摘されている。

 憲法の最大の欠陥は、有事や非常事態の規定が全くないことだ。他国の対応が厳格で素早いのは、憲法に規定があるからだ。他国と比べて日本はもっと強硬な策を取れないのかという議論があるが、憲法で規定されていないということをきちんと踏まえなくてはいけない。

 危機管理上の問題は、有事を想定しておらず、事件事故が起きないと法律ができないことだ。災害対策基本法は、1959年の伊勢湾台風を契機に作られた。茨城県東海村の国内初の臨界事故で、原子力災害特別措置法が出来た。日本の場合は憲法に非常事態に関する規定がない。有事のこと、国を守るといった世界の憲法の常識が、日本国憲法には抜けている。

どこに注目して読んでもらいたいか。

 ぜひあとがきを読んでほしい。私が尊敬する、日本BE研究所所長の行徳哲男氏から聞いた、哲学者キルケゴールの「野鴨の哲学」の話だ。今の日本が成長できずにいるのは、平和な世界に安住し、本来は飛べるはずが、餌付けされた鴨のままでいるせいだ。米IBMの創始者トーマス・ワトソンがこれを学び、米国の科学技術を発展させた。日本人もこの「野生の鴨たれ」という哲学から学習し、憲法を改正しなくてはいけない。

どういう読者を対象にしているか。

 この本をできるだけ多くの国民に読んでもらいたい。憲法の内容と問題点、改正の必要性について理解してもらえるようやさしく解説した。

 憲法を全く知らない人が見ても分かるように、序文と1章と、あとがきを読んでもらえれば理解できるように書いた。後半には、安全保障のプロの人たち向けにも読み応えのある内容が書かれている。

 また、自民党の憲法案の推移も整理してある。憲法改正案は、自民党が憲法審査会で提案してそのまま通るわけではない。協力してくれる政党と議論して決める。国民投票があるので、できるだけ多くの人が賛成できる案にしないとけない。問題は憲法審査会で野党がまったく議論をしないことだ。憲法には改正規定があるので議論しないことは憲法を守っていないことと同じだ。