北方領土の日、露の揺さぶりに惑わされるな


 35回目の「北方領土の日」を迎えた。我が国固有の領土である択捉島、国後島、歯舞群島、色丹島が旧ソ連に不法占拠されてから、70年もの長い年月が経過した。安倍晋三首相はきょう開催の北方領土返還大会でロシアに改めて抗議するとともに、4島一括返還に向けた強い決意を明確にすべきだ。

制裁を緩和させる狙い

 日本の敗色が濃厚だった1945年8月9日、ソ連は当時有効だった日ソ中立条約を破り、一方的に宣戦布告した。ソ連は圧倒的な兵力を投入して、日本がポツダム宣言を受諾し終戦を迎えた8月15日以降も侵攻を続けた。北方領土全域が占領されたのは、日本の降伏文書調印の3日後である9月5日だ。

 さらにソ連は旧日本軍人や民間人ら約60万人を国際法に違反してシベリアに抑留し、飢餓や酷寒の中での過酷な強制労働に従事させて約6万人を死に至らしめた。これら不当な歴史的事実を不問に付し、ロシアが北方領土を不法占拠したままでの日露平和条約締結はあり得ない。

 ロシアは昨春、ウクライナ騒乱で親露派ヤヌコビッチ政権が崩壊し、親欧米派が政権を握ったことに激しく反発し、ウクライナのクリミア半島を併合するという暴挙に出た。その後もウクライナ東部の親露独立派を支援し、独立派と政府軍の戦闘で5000人以上が死亡。今年に入って戦闘はさらに激化する様相を見せている。

 力による国境変更は許されない。欧米が発動した対露経済制裁に我が国が同調するのは当然だ。ただ、北方領土交渉を進展させたい日本にとって苦しい決断であることも事実である。ロシアはそれを見透かし、硬軟両様で揺さぶりをかけている。

 昨年9月には北方領土を含む極東地域で大規模軍事演習を行い、イワノフ大統領府長官が択捉島を訪問した。プーチン大統領は安倍首相との電話会談で対話の継続を語る一方、訪日を引き延ばしている。

 パノフ元駐日大使はインタビューで、日本が対露制裁を続ける限り「北方領土交渉の進展は期待できない」と強調し、「日本は独自の対露外交を行えばいい」と語った。ロシアの狙いは制裁緩和だ。一日も早い北方領土返還を願う日本の国民感情を利用し、欧米と日本を切り離そうとしているのだ。

 ロシアの通貨ルーブルは暴落し、今年の国内総生産(GDP)成長率はマイナス4%と予想されている。政府が事実上統制する主要テレビ局が愛国心を煽(あお)り、クリミア併合を強行したプーチン大統領は高い支持率を誇っているが、制裁の影響が国民生活に広がるにつれ、不満の矛先がプーチン政権に向く可能性は否定できない。

 岸田文雄外相が語ったように、北方領土問題は「力による現状変更」だ。だからこそ我が国は、同様な立場のウクライナを見捨てることはできない。

返還の正当性訴えよ

 北方領土交渉をエサに制裁緩和をもくろむロシアの術中にはまってはならない。我が国は北方4島返還の正当性を国際社会に訴え続けるとともに、交渉の後ろ盾となる日米同盟関係の強化に全力を挙げるべきだ。

(2月7日付社説)