【社説】EU首脳会議 防衛力向上で同盟強化を


ヴェルサイユ宮殿

 欧州連合(EU)がパリ郊外のベルサイユ宮殿で首脳会議を開催し、ロシアのウクライナ侵略について協議した。

 ロシアの脅威が現実となったことで、各国首脳はロシアの化石燃料への依存からできるだけ早く脱却することを盛り込んだ「ベルサイユ宣言」を採択。軍事装備をウクライナに提供するとともに、域内の安全保障体制の再構築の必要性を確認した。

安全保障の歴史的転機

 全ての加盟国はウクライナへの全面的な支援を確認し、ロシアの侵攻とベラルーシの共謀を強く非難。「民間人の犠牲者を出したロシアの攻撃に関する国際刑事裁判所の調査開始」を支持し、「原子力施設の安全を確保すること」を求めた。

 EUのミシェル大統領は、ウクライナ軍に武器などを供与するための資金額を5億ユーロ(約640億円)追加し、総額を10億ユーロ(1280億円)に倍増させることでまとまったと明らかにした。宣言はウクライナに「欧州の家族の一員だ」とのメッセージを送り、ロシアに侵攻の即時停止を改めて呼び掛けた。

 同時にミシェル氏は「2週間前とわれわれは別の世界に立っている」と語り、欧州の防衛を強化する必要性を訴えた。今後臨時のEU首脳会議を開き、安全保障と防衛問題を集中討議する考えだ。欧州の防衛政策はこれまで個々の国が北大西洋条約機構(NATO)と協力しながら主導してきたが、EUの関与を強めることになる。

 ロシアのウクライナ侵攻は、欧州の安全保障に歴史的転機をもたらしたと言えよう。第2次世界大戦後、不戦共同体として発展してきたEUが軍事を前面に出す姿は、大きな変化を印象付けた。欧州各国を見ても、ドイツのショルツ首相は国防費を国内総生産(GDP)比で2%以上へと大幅に引き上げる方針を表明した。デンマークも2033年までに2%に引き上げるという。

 EUはこのところ、米国のインド太平洋地域の重視などを受け、独自の防衛体制を強化する動きを見せていた。しかし、米国の軍事力や情報力がなければ欧州防衛は困難だ。欧州の防衛力向上を米欧の軍事同盟であるNATOの機能向上につなげる必要がある。

 日本も米国との同盟を強化するには、欧州と同様に自主防衛力の向上が欠かせない。防衛費をGDP比2%以上にすることや、敵基地攻撃能力の保有、ニュークリア・シェアリング(核兵器の共有)などの防衛政策を前向きに検討すべきだ。

 EU首脳会議では、エネルギー自給率向上に焦点を当てた議論も行われた。宣言には、ロシアの天然ガスや石油、石炭への依存度を下げる方策として、再生可能エネルギーの普及加速やエネルギー効率の改善、液化天然ガス(LNG)などの調達ルートの多様化を明記。27年までに依存度をゼロにすることを目指す。

対露依存度低下を図れ

 日本も、ロシア産原油などの輸入禁止に踏み切った米国のように、すぐに全面禁輸を行うことはできないが、対露依存度の大幅な低下や新たな調達先の確保などを図る必要がある。