【社説】人口減少 「家族の価値」重視の抜本策を
厚生労働省が2021年の人口動態統計の速報値を公表した。死亡数から出生数を引いた人口自然減は60万9392人で、初めて60万人を超えた。
人口減少が続けば、経済力の低下や地方の衰退、社会保障の支え手減少などが深刻化するだろう。政府は対症療法的な対策でなく、「家族の価値」を重んじる抜本策を講じるべきだ。
前年から60万人減少
速報値によると、出生数は84万2897人で6年連続で過去最少となる一方、死亡数は前年から6万7745人(4・9%)増の145万2289人で戦後最多となった。1、2月の出生数で特に減少幅が目立ったのは、新型コロナウイルス感染拡大の影響で婚姻が控えられたためだろう。
しかし、新型コロナが広がる前から人口は減少していた。国内では07年以降、15年連続で自然減が続いている。19年に確定数で50万人を超えた減少数は、それから2年で約60万人に達したことになり、人口減少の加速化が進んでいる。
出生数減少の大きな原因は、出産適齢期の女性が減ったため、次の世代の女性も減っていく悪循環に陥っていることだ。1970年代前半に生まれた団塊ジュニア世代の出産適齢期に出生率が上がらず、「第3次ベビーブーム」が起きなかったことが影響している。
もっとも、既婚女性の出生率を表す「合計結婚出生率」は、団塊ジュニア世代の出産適齢期である90年代以降も1・7~1・9となっている。この数字は、政府が2025年までの目標に掲げる「希望出生率」の1・8とほぼ同じである。
これに対し、1人の女性が生涯に産む子供の推計人数を示す「合計特殊出生率」が1・34(20年)となるのは未婚女性を含めているからだ。少子化の背景には未婚化が進んでいることがあると言えよう。
かつての日本では、見合いなどで結婚することが当たり前だった。だが、1960年代に恋愛結婚が見合い結婚よりも多くなり、60年代に20代だった人が50代となった90年代から、50歳までに一度も結婚したことのない「生涯未婚率」が大幅に上昇している。2020年には男性25・7%、女性16・4%で、男性の4人に一人、女性の6人に一人に達した。
最近は独身男女の出会いの場を提供する企業や自治体も増えている。結婚相談所や婚活アプリなどを利用する人も多い。こうした場が、かつての見合いを代替することが期待される。
しかし少子化の流れを食い止めるには、国が抜本的な対策に乗り出す必要があろう。結婚は個人の自由だが、一方で社会における家族の重要性を啓発していくことも不可欠だ。
結婚の素晴らしさ伝えよ
人口政策というと、戦時中の「産めよ、殖やせよ、国のため」というスローガンを想起させるとの抵抗感も根強い。だが人口が減れば、国力が衰退することは目に見えている。
「こども家庭庁」の設置法案が閣議決定された。新省庁には少子化対策を進める上で結婚や育児の素晴らしさを伝えることも求めたい。