温暖化影響への適応策と緩和策に努めよ
地球温暖化によって今世紀末の日本では、年平均気温が20世紀末と比べ最大6・4度上昇し、豪雨の増加で洪水被害額が約3倍になるとの将来予測を国立環境研究所や茨城大などの研究チームが発表した。年間の洪水被害額は4416億~6809億円に達すると試算している。
洪水被害額が約3倍に
このほか、海面水位が60~63㌢高くなると予想。浸食作用などにより最悪の場合、砂浜は85%消失し、熱中症などによる死者は2倍以上に増加するといった深刻な影響を浮き彫りにしている。
温暖化によって豪雨被害が増える傾向は、伊豆大島を昨年襲った土石流災害などにも表れている。今後温暖化が進むにつれ、状況はさらに厳しくなると考えられるが、その影響が具体的に数字として示された意味は大きい。
一方、予測は洪水増加に備えた堤防強化などの「適応策」によって、被害を軽減させることができるとしている。「50年に1回」の洪水を想定した現在の治水レベルを「70年に1回」に引き上げれば、被害額を1216億~2263億円に減らせるとの見通しも示した。
政府はこれを踏まえ、2015年夏までに被害軽減のための「適応計画」を策定する。だが、治水事業など膨大なコストが掛かる。研究チームのリーダーを務める三村信男茨城大教授は、対策費用と効果の検証を急ぐべきだと強調している。
温暖化が進む現状の中、適応策の推進は喫緊の課題だ。しかし、それによって温暖化そのものを緩和させる必要がなくなるということではない。
熱中症による死者の増加を抑えるには「緩和策」が欠かせない。また、砂浜消失を防ぐために消波ブロックを設置すれば、いたずらに醜い海岸線をつくってしまうだけである。日本から白砂青松の景観が消え、子供たちに海水浴を楽しませることもできなくなる。想像するだに寂しい日本の姿である。
やはり温暖化の進行を食い止めるため、目標を改めて設定し達成に努力すべきだ。それなくしては、被害軽減の適応策をいくら実施しても追い付かない。
昨年11月の国連気候変動枠組み条約第19回締約国会議(COP19)で、日本は20年までの国内の温室効果ガス削減目標を「05年比3・8%減」に見直すことを表明し、参加国から「低すぎる」と批判された。
このような目標となったのは福島第1原発事故以後、大量の温室効果ガスを排出する火力発電への依存度が9割に達し、原発再稼働の見通しが立たないことが大きな理由だ。
原発や火力に替わると期待される風力をはじめとした再生可能エネルギーは、12年7月に固定価格買い取り制度が始まったが、発電電力量に占める割合は12年度で1・6%にすぎない。
原発再稼働が不可欠
温暖化対策の上でも温室効果ガスの排出がゼロで、しかも低コストで発電できる原発の活用が不可欠だ。
原子力規制委員会による審査で安全が確認された原発は、地元の理解を得て速やかに再稼働する必要がある。
(3月21日付社説)